最新記事

介護

俳優ロブ・ロウが母の介護で学んだこと

Who Cares for the Carer?

2018年12月19日(水)17時20分
ロブ・ロウ(俳優)

例えば深刻な病を抱える患者にとって、診察の際に自分以外の第三者が同席してくれることは非常に重要だ。02年に癌の新しい化学療法薬についての啓発運動を手伝ったとき、私は驚くような統計を目にした。医師から伝えられた情報のうち、患者が覚えていられるのはたったの10%にすぎないというものだ。たった10%だ!

それに、医療費を保険でカバーしてもらうには電話のやりとりや書類の作成に加え、保険会社や医師とも話をしなければならない。自分が病気のときに、これを自力でやらなければならなくなったらどうなることかと考えた記憶がある。(病気なのに)朝からベッドを出られるはずがない。

今回の話のテーマである、介護の現場で重要な役割を果たしている友人や家族たちは無報酬だ。病気を――たぶん死に至る病気を――抱えた家族の姿を見るのはストレスになるし、気持ちが沈むものだ。経済的・時間的な負担も加わり、介護者が背負う重荷は非常に大きい。

完璧にこなす必要はない

そんな人たちに私が言いたいのは、自分のことを後回しにしないでということだ。飛行機に乗ったときに(機内安全の説明をする)客室乗務員から言われるのは、「他の人を手伝う前に自分の酸素マスクをきちんと装着してください」ということだ。なぜか。自分自身の面倒を見ずして他の人の面倒を見ることはできないからだ。

(介護は)必ずしも進んで担いたいものではないが、定まった方法論は存在しない。完璧にこなす必要はない。全ての正しい答えを知っている必要もない。間違いを犯すこともあるだろうが、それでいいのだ。ただ、介護は人生で最も報われる行為の1つとなる可能性があることを知っておいてほしい。

母の介護は恐ろしい、信じられないほどのストレスと痛みを伴うものだった。その一方で、他の状況では決して実現しなかったかもしれない形で母と一緒にいられた時間でもあった。03年に母が亡くなったとき、私は十分に母と対話ができた、十分な時間、母と一緒に過ごせたと感じた。友達の中には、両親の(急な)死を経験して、納得いかない思いにとらわれた人もいる。どれほど愛しているか伝えたかったのに、あんなことやこんなこともしてあげたかったのに、と。

介護者だけが手にすることのできる贈り物、それは病気の家族のそばにいられるということだ。思い残すことなくいろいろなことをやったり、話したりすることができる。

だから今この時を大切にしよう。将来、必ず人生のこの章を満足感とともに振り返ることができるはずだから。その一方で、必要なときはためらわずに助けを求めてほしい。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国国防相、「弱肉強食」による分断回避へ世界的な結

ワールド

アングル:9月株安の経験則に変調、短期筋に買い余力

ビジネス

ロシュ、米バイオ企業を最大35億ドルで買収へ 肝臓

ワールド

ドイツ銀行、第3四半期の債券・為替事業はコンセンサ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 2
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 3
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 4
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 8
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 9
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 10
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「なんて無駄」「空飛ぶ宮殿...」パリス・ヒルトン、…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中