最新記事

米中対立は「新冷戦」ではない

2018年11月22日(木)08時57分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

トランプ大統領と習近平国家主席 Damir Sagolj-REUTERS

中国は一党支配であるだけで国家資本主義に近く共産主義的要素はない。加えて習近平は米金融界の巨頭数十名を抱え込んで彼らとともにグローバル化を主張している。米中間にはイデオロギー的冷戦構造の要素は皆無だ。

中国は独裁資本主義国家でしかない

かつての米ソ間の「冷戦」はイデオロギー的対立を基軸にしていた。

太平洋戦争中のルーズベルト大統領が親中的であり、コミンテルンのスパイに囲まれていたことから、執拗にソ連に参戦を呼びかけ、スターリンは日本が降伏する直前に参戦し、歴然としている「日本の領土」を、いわゆる「北方領土」としてソ連のものにしてしまった。反共のトルーマン大統領がソ連の進出を阻止しようとした時には、既に遅かった。

あのときから東西の対立構造は決まっていたようなものだが、朝鮮戦争休戦協定以来、それは「冷戦」の形で存続し、ソ連崩壊で一応の終止符を打つ。

この「冷戦」は、あくまでもソ連や中国といった共産主義諸国と民主主義諸国との対立であって、アメリカは何とか共産主義陣営というイデオロギーの浸透(赤化)を喰い止めようとしていた。

しかしソ連が崩壊し、中国が既に改革開放に向かっており、「特色ある社会主義国家」と銘打つだけ銘打った、実際上の資本主義経済を進め始めると、イデオロギー的な陣営の対立は消失している。

あるのは「一党支配体制」か、「民主主義体制」かの違いだけで、一党支配体制は「独裁資本主義=国家資本主義」の路線を走っている。つまり現在は、習近平国家主席の意思一つで国家予算を制限なく投入することができる独裁資本主義(=国家資本主義)が国の発展と国民の幸せに有利なのか、それとも民主主義国家が民主的手法で進める「民主的な資本主義」が有利なのかの違いになっているだけである。

中国は共産主義的要素を「一党支配体制」に残しているだけで、社会のどこにも共産主義的あるいは社会主義的要素はない。

ウォール街と利害を一つにしている習近平政権

おまけに11月12日付のコラム<「キッシンジャー・習近平」会談の背後に次期米大統領候補>でも触れたように、習近平国家主席のお膝元には米財閥の巨頭、数十名が清華大学経済管理学院顧問委員会の委員として集まっている。

アメリカの元財務長官だったポールソン氏(ゴールドマン・サックス元会長兼CEO)をはじめ、現在のゴールドマン・サックス会長兼CEOのブランクファイン氏、JPモルガン・チェース会長兼CEOのダイモン氏、ウォルマート前社長兼CEOでBDTキャピタル&パートナーズ顧問委員会議長のスコット氏、ジェネラル・アトランティック(投資会社)のCEOであるフォード氏など、枚挙にいとまがないが、投資ファンド関係だけでなく、ゼネラル・モーターズやコカ・コーラ、ウォルマートなどの現会長兼CEO、あるいはマイクロソフト、IBM、アップル、フェイスブックなどのシリコンバレーの名だたるIT企業のCEOもずらりと名前を連ねて、習近平側に立っているのだ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

米、ベネズエラ沖でタンカー拿捕 一段と緊張高まる公

ビジネス

ブラジル中銀、4会合連続で金利据え置き タカ派姿勢

ビジネス

FRBが3会合連続で0.25%利下げ、反対3票 緩

ワールド

復興計画の原則で合意とウクライナ大統領、クシュナー
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア空軍の専門家。NATO軍のプロフェッショナルな対応と大違い
  • 2
    トランプの面目丸つぶれ...タイ・カンボジアで戦線拡大、そもそもの「停戦合意」の効果にも疑問符
  • 3
    「何これ」「気持ち悪い」ソファの下で繁殖する「謎の物体」の姿にSNS震撼...驚くべき「正体」とは?
  • 4
    死者は900人超、被災者は数百万人...アジア各地を襲…
  • 5
    【クイズ】アジアで唯一...「世界の観光都市ランキン…
  • 6
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 7
    「正直すぎる」「私もそうだった...」初めて牡蠣を食…
  • 8
    「安全装置は全て破壊されていた...」監視役を失った…
  • 9
    イギリスは「監視」、日本は「記録」...防犯カメラの…
  • 10
    「韓国のアマゾン」クーパン、国民の6割相当の大規模情…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 9
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 10
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中