最新記事

米トルコ関係

【記者殺害疑惑】サウジの悪事?のおかげで歩み寄ったアメリカとトルコ

Erdogan Frees U.S. Pastor While Still Managing to Embarrass Trump

2018年10月15日(月)19時42分
マイケル・ハーシュ

10月15日、失踪事件の舞台となったイスタンブールのサウジ領事館から出てきたサウジ政府関係者 Murad Sezer-REUTERS

<サウジ記者殺害事件に関する情報を流す一方、アメリカ人牧師を釈放したエルドアンとトランプの間では、いったいどんな取引があったのか>

トルコのレジェップ・タイップ・エルドアン大統領は、ドナルド・トランプ米大統領にとって「強権支配の先輩」と言ってもいい。トランプがアメリカ国内でやろうとしていること──政治とメディアを支配し、巧妙に世論を操作すること──を、エルドアンはトルコでほぼやり遂げているからだ。

2016年7月のクーデター未遂事件以降、エルドアンは報道機関を次々と閉鎖。9月には、トルコで最後に残された独立系新聞もエルドアンと親しい友人の支配下に入ったらしい。

だが国際舞台では(少なくともぱっと見たところは)、エルドアンは言われ放題、いじめられ放題になりつつある。

例えば10月12日、トルコは突然、でっち上げの証拠で逮捕・収監していたアメリカ人牧師のアンドルー・ブランソンを釈放した。エルドアンは、アメリカによる経済制裁がもたらす苦痛にもはやトルコは耐えきれないと暗黙のうちに認めたのだ。

トランプは8月、ブランソン牧師の拘束を理由にF35戦闘機100機のトルコへの売却が凍結、さらにトルコから輸入する鉄鋼とアルミニウムへの関税率を2倍に引き上げると発表した。トルコの通貨リラは8月以降急落し、トルコ経済はすでに景気後退局面に入っている可能性がある。

「いいこと続き」のはずだったのに

だが、本当に勝ったと言えるのはどちらなのだろう。トランプ政権高官らはブランソン牧師の釈放はトルコ閣僚への制裁発動を含む大統領の強硬姿勢の勝利だと喜んでいた。だが祝賀気分は長くは続かなかった。トルコが絶妙のタイミングでサウジアラビア国籍でアメリカ在住のジャーナリスト、ジャマル・カショギの失踪に関する恐るべき情報を公表したからだ。

トルコ当局によれば、サウジアラビア政府に批判的だったカショギは10月2日、イスタンブールのサウジアラビア領事館で殺害されたという。トルコによる相次ぐリークは、ワシントン・ポストが11日にカショギの拷問と殺害を示す音声や映像の存在を報じたことでクライマックスを迎えた。

トランプの連戦連勝ムードはすっかり水を差された格好だ。レイプ未遂疑惑が出ていたブレット・キャバノーの最高裁判事への指名を勝ち取ってわずか数日後、トランプが友好関係を大事にしてきたサウジのムハンマド・ビン・サルマン皇太子が、カショギ殺害を命じた黒幕として浮上したのだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

台湾、ウクライナで実戦投入のドローン技術導入へ 中

ビジネス

利上げ継続姿勢も、経済・物価「下振れリスク大きい」

ワールド

焦点:関税交渉まとまらず、石破政権 参院選控え「国

ワールド

世界石油需要、20年代末まで増加 中国は27年ピー
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:コメ高騰の真犯人
特集:コメ高騰の真犯人
2025年6月24日号(6/17発売)

なぜ米価は突然上がり、これからどうなるのか? コメ高騰の原因と「犯人」を探る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロットが指摘する、墜落したインド航空機の問題点
  • 2
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 3
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 4
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    50歳を過ぎた女は「全員おばあさん」?...これこそが…
  • 7
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 8
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 9
    コメ高騰の犯人はJAや買い占めではなく...日本に根…
  • 10
    イタリアにある欧州最大の活火山が10年ぶりの大噴火.…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロットが指摘する、墜落したインド航空機の問題点
  • 3
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 4
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタ…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 7
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 8
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?.…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 6
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 7
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 8
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 9
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 10
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中