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シリア情勢

シリア反体制派の最後の牙城への総攻撃はひとまず回避された──その複雑な事情とは

2018年9月20日(木)19時40分
青山弘之(東京外国語大学教授)

二つの陣営を比べると、前者がアル=カーイダ系、後者が「フリーダム・ファイター」のように見える。だが、両者は、アル=カーイダ系組織を包摂している点、そして欧米諸国、トルコ、サウジアラビア、カタールの支援を受けてきた点で差がない。シリア政府は、反体制派がアル=カーイダで、欧米諸国が国際法に違反して彼らを支援していると非難するが、こうした主張はあながち間違いとは言えないのだ。

なお、2016年末以降、アレッポ市東部、ダマスカス郊外県カラムーン地方、同東グータ地方、ダルアー県、クナイトラ県がシリア軍によって制圧される過程で、シリア政府との和解を拒否した戦闘員が家族とともにイドリブ県に逃れた。現在同県で活動を続ける戦闘員の数は3万人(Arabia.net)とも、9万人(RT)とも言われる。

一方、内戦前に150万人だったイドリブ県の人口は、こうした戦闘員や避難民の流入によって300万人(Orient.net)に膨れあがっているという。この数は、シリア軍が武力で制圧したアレッポ市東部の人口(27万人)や東グータ地方の人口(40万人)よりも多い。シリア軍の総攻撃が始まれば、戦闘員と共生する(ないしは戦闘員によって「人間の盾」とされている)住民に未曾有の被害が及ぶと警鐘が鳴らされているのはそのためだ。

混濁した反体制派をどう「仕分け」するか

イドリブ県へのシリア軍の総攻撃が猶予されるカギは、混濁した反体制派をどう「仕分け」するかという点にあった。ジュネーブ会議やアスタナ会議は、反体制派を「テロ組織」(アル=カーイダ系組織)と「合法的な反体制派」に峻別し、前者を殲滅し、後者とシリア政府を停戦・和解させることを原則とした。だが、この峻別は「ミッション・インポシブル」だった。

ロシアとともにジュネーブ会議の議長国を務めた米国(バラク・オバマ前政権)は、2016年半ばにロシアに「ミッション・インポシブル」の実行を確約するという致命的ミスを犯し、シリア内戦からの撤退(イスラーム国に対する「テロとの戦い」への注力)を余儀なくされた。

これに対して、トルコとロシアは現実主義に徹した。両国は、自らの国益に資する反体制派を「合法的な反体制派」、そうでないものを「テロ組織」とみなしたのである。ここでいう「国益に資する」とは、ロシアにとっては、シリア政府との和解に応じることを意味した。

また、トルコにとっては、シリア軍(そしてロシア軍)との衝突を避ける一方で、同国にとって安全保障上最大の脅威と目されるロジャヴァ(西クルディスタン移行期民政局)の勢力拡大を武力で阻止し、シリア北部におけるトルコの実質占領を支えることを意味した。

イドリブ県でロシアとトルコの国益に適う「合法的な反体制派」となったのが、他ならぬ国民解放戦線だった。似た組織としては、トルコ軍のアレッポ県北部への侵攻と占領に協力し、2017年9月に国民軍の名で糾合した武装集団がある(表を参照)。国民解放戦線もまた、イドリブ県でのトルコの支配を支える勢力として、生き残りをかけたのである。

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