最新記事

金融

新興国通貨危機、実体経済への波及に身構える投資家

2018年9月19日(水)11時18分

 9月14日、新興国投資家は、通貨危機とそれに対処するための大幅な利上げが、実体経済をより大きく減速させたり、景気後退(リセッション)を引き起こす恐れがないかどうか見定めようとしている。写真はトルコリラ紙幣。イスタンブールで8月撮影(2018年 ロイター/Murad Sezer)

新興国投資家は、通貨危機とそれに対処するための大幅な利上げが、実体経済をより大きく減速させたり、景気後退(リセッション)を引き起こす恐れがないかどうか見定めようとしている。

トルコの中央銀行は13日、政策金利を一気に6%ポイント余りも引き上げて24%に設定し、年初来約40%に達したリラの下落をこれ以上容認しない姿勢を打ち出した。

アルゼンチンも半値以下になったペソの下支えに苦戦し、政策金利を60%にまで上げている。

さらにインドルピーが過去最安値に沈むとともに、南アフリカランド、ロシアルーブル、ブラジルレアルといった通貨が今年に入って15─20%値下がりした。

そして市場の混乱が実体経済に悪影響を及ぼし始めた兆しが見えてきた。南アは第2・四半期に予想外のリセッションに突入。アルゼンチンもリセッション入りが予想され、トルコは来年にかけて経済がハードランディングするとの見方が多い。

ではこれらの国の経済成長は足元でどんな状況となり、企業や消費者の心理がショックを受けている兆候はあるのか。また資金流入がほぼ止まったことで、来年の経済見通しは劇的に悪化しているのだろうか。

企業景況感と金融環境

今月公表のデータに基づくと、多くの途上国の購買担当者景気指数(PMI)は急低下した。

HSBCの新興国市場調査グローバル責任者ムラト・ウルゲン氏は、ドルが堅調で米短期金利が上がっている環境では、新興国の対外金融環境は特に経常赤字国において引き締まると指摘。資金流出を受けて多くの新興国が利上げを選択していることから、国内の金融環境も引き締まりつつあると付け加えた。

同氏によると、市場の不安定さや金利上昇、夏場の株価下落を考えれば金融環境が厳しい局面に置かれ続ける公算は大きく、それが今後の経済活動を圧迫するだろうという。

通貨安の負の側面

国際金融協会(IIF)のチーフエコノミスト、ロビン・ブルックス氏は、過去の例では通貨が急落した年に大きく落ち込んだ実質国内総生産(GDP)は、その後比較的速いスピードで回復し、通貨安で輸入が抑制され、次第に輸出が増えることで経常収支も赤字から黒字に転じると指摘した。

ただ通貨安は輸出競争力を促進する半面、国内の購買力を弱め、金融の引き締まりとともに需要と経済成長を押し下げる。

さらに専門家が詳しく分析しているのは、増大している貿易摩擦や輸入関税が、貿易の比重が高まり続ける新興国経済にもたらす影響だ。

ウルゲン氏は既にトルコ、アルゼンチン、ブラジル、南アの経済見通しを引き下げており、当面新興国の先進国に対する成長率の優位は縮小すると予想する。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

訪日客の売り上げ3割減 6月、高島屋とJフロント

ビジネス

ヤゲオ、芝浦電子へのTOB期間を8月1日まで延長 

ワールド

トランプ政権、不法移民の一時解放認めず=内部メモ

ワールド

トランプ氏、プーチン氏に失望表明 「関係は終わって
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    真っ赤に染まった夜空...ロシア軍の「ドローン700機」に襲撃されたキーウ、大爆発の瞬間を捉えた「衝撃映像」
  • 2
    「史上最も高価な昼寝」ウィンブルドン屈指の熱戦中にまさかの居眠り...その姿がばっちり撮られた大物セレブとは?
  • 3
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長だけ追い求め「失われた数百年」到来か?
  • 4
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 5
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 6
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 7
    【クイズ】次のうち、生物学的に「本当に存在する」…
  • 8
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 9
    「このお菓子、子どもに本当に大丈夫?」──食品添加…
  • 10
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 4
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 5
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 8
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 9
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 10
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中