最新記事

環境

ハワイで日焼け止めが販売禁止に!? 医師会らの反対を押し切って

“Coral-Killer” Sunscreens

2018年8月20日(月)16時40分
クリスティン・ヒューゴ

サンゴ礁の保護は海洋生物だけでなくハワイの観光業を守ることにもつながる DAVID FLEETHAM-VW PICS-UIG/GETTY IMAGES

<サンゴの白化につながる化学物質を含む製品の販売禁止に乗り出したハワイ州の本気度>

ここ数年、世界中でサンゴ礁が危機にさらされている。二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスが急増し、温暖化によって海水温が上昇。サンゴ内に共生する褐虫藻が排出され、サンゴは白く、もろい状態になる。

サンゴの白化と呼ばれるこの現象は1980年代に比べて4倍の速度で進んでおり、白化したサンゴは通常、死に至る。近年は世界各地で、サンゴの白化と死が次々と報告されている。

国際サンゴ礁イニシアティブ(ICRI)によれば、原因は気候変動に加えて開発や外来生物、魚類乱獲、観光、海洋汚染など多岐にわたり、各地で対策が始まっている。そんななか、ハワイで一味違った世界初の試みが誕生した。サンゴ礁に害を及ぼす化学物質を含んだ日焼け止めの販売を禁止する法案が、州議会で可決されたのだ。

7月初め、ハワイ州のデービッド・イゲ知事は法案に署名。2021年1月1日以降、州内ではオキシベンゾンとオクチノキサートを含有する日焼け止めの販売が禁止される。

同法のきっかけになったのは、オキシベンゾンがハワイのサンゴ礁に打撃を与え、気候変動への耐性を弱めると指摘した最近の研究だ。こうした化学物質はDNAを損傷させ、内分泌物を破壊し、サンゴを死滅させる。

米内務省国立公園局によれば、国内のビーチで海水浴客から流れ出す日焼け止めは、毎年4000~6000トンに上る。「ハワイのサンゴ礁の耐性を守り、回復させるための小さな一歩だ」と、イゲは語った。

皮膚癌への影響を懸念するハワイ医師会やハワイ皮膚癌連合、地元産業や団体の一部は、この法案が「化学物質の影響を誤って解釈した研究」に基づいているとして、法案に反対した。だが彼らの抵抗にもかかわらず、州政府に法案成立を迫る請願は広がりを見せ、5万5000人近い署名が集まった。

こうした動きからも分かるのは、ハワイの人々がサンゴ礁を非常に重視しているという事実だ。生態学的な観点から言えば、サンゴ礁と魚との共生関係は、海洋生物とその食物連鎖に欠かせない。さらに、これらの魚を収穫し、販売し、食べることで、人間が利益を得る。

波や暴風から海岸を守ってくれるサンゴ礁は、観光産業にとっても不可欠だ。ハワイは観光業で毎年巨額を稼ぎ出す。ハワイ州観光局によれば、今年1~ 5月だけで観光収入は76億6000万ドルに上る。

だから当然ながら、エコ推進派のみならず、観光業界もこぞって同法を支持している。ハワイアン航空やホテルの一部は、サンゴ礁に無害な日焼け止めを販売する業者と提携し、観光客に選択肢を示そうとしている。

サンゴ礁を殺す日焼け止めは、ハワイでは死滅させられそうだ。

[2018年8月14日号掲載]

202404300507issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年4月30日/5月7日号(4月23日発売)は「世界が愛した日本アニメ30」特集。ジブリのほか、『鬼滅の刃』『AKIRA』『ドラゴンボール』『千年女優』『君の名は。』……[PLUS]北米を席巻する日本マンガ

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

再送米PCE価格指数、3月前月比+0.3%・前年比

ワールド

「トランプ氏と喜んで討議」、バイデン氏が討論会に意

ワールド

国際刑事裁の決定、イスラエルの行動に影響せず=ネタ

ワールド

ロシア中銀、金利16%に据え置き インフレ率は年内
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 5

    アカデミー賞監督の「英語スピーチ格差」を考える

  • 6

    大谷選手は被害者だけど「失格」...日本人の弱点は「…

  • 7

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    「性的」批判を一蹴 ローリング・ストーンズMVで妖…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中