最新記事

中国

「墨かけ女子事件」は中国民主化運動に発展するか?――広がる「習近平の写真に墨汁」

2018年7月17日(火)16時40分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

たとえば「これ」をご覧いただくと、それが真実であったことがわかる。

大陸の民主活動家を取材

これら一連の現象が中国の民主化運動につながるか否か、中国大陸にいる民主活動家を取材して聞いてみた。彼の回答は絶望的だった。

「考えてみてください。中国には200万人の軍隊がおり、数百万人の警察がいます。彼らは自国の人民を鎮圧するために存在しているのです。中国人民は少なくともあと20年間は不民主の中で生きていくしかないのです。中国人は考えることさえコントロールされています。微信(WeChat)も微博(ウェイボー)も全て監視されているのですから」

そして続けた。

「しかも中国で何が起きているのかを知るために、特殊な方法を使って海外から情報を入手するしかないのです。人民が絶対に横につながらないように、政府は最大の工夫をしているのです。こんな環境下で民主化運動など、夢のまた夢。われわれに前途はない!」

絶対に民主化運動には発展し得ないと、怒りをぶつけた。

中国共産党の元老幹部を取材

すでに齢(よわい)90歳を越える、中国共産党の元老幹部を取材した。

以下、Qは筆者、Aは元老幹部だ。

Q:この「墨かけ女子事件」は中国の民主化運動に発展すると思うか?

A:思わない。六四(天安門)事件のように怒りの規模が大きくないから。

Q:しかし人民の怒りは潜在していることは確かだと思うが。

A:それは確かだ。しかし民主化を達成するには、まず貧富の格差を解決し、教育の普及が不可欠だ。

Q:教育の普及?

A:そうだ。民主化というのは知的活動であって、人民の平均的な知的水準が高まれば、「民主」という、「金儲けではない理念」を求めるようになる。

Q:あなたは民主化を望んでいるか?

A:望んでいる。共産党政権が民主化すればいいが、それは望み薄だろう。党はまだまだ改革していかなければならないが、民主は脆弱だ。だから批判を怖がり、監視を強化している。中国に民主が訪れるには、まだ長――い時間がかかる。

董瑶けいの父親も華涌も拘束された

元老幹部の言った通り、7月13日夜、董瑶けいの父親・董建彪と華涌が公安に拘束されたことが分かった。公安が家に入ってくる様を、華涌が生中継しながらツイッターで発信している

これが中国の現実だ。

国際調査機関でなくとも、全世界の人々が一人でも多く、この現実を拡散してほしいと強く望む。その力を習近平は無視することはできないだろう。

endo-progile.jpg[執筆者]遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『習近平vs.トランプ 世界を制するのは誰か』(飛鳥新社)『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版も)『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

この筆者の記事一覧はこちら≫

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国人民銀、緩和的金融政策を維持へ 経済リスクに対

ワールド

パキスタン首都で自爆攻撃、12人死亡 北西部の軍学

ビジネス

独ZEW景気期待指数、11月は予想外に低下 現況は

ビジネス

グリーン英中銀委員、賃金減速を歓迎 来年の賃金交渉
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ギザのピラミッドにあると言われていた「失われた入口」がついに発見!? 中には一体何が?
  • 2
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評家たちのレビューは「一方に傾いている」
  • 3
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一撃」は、キケの一言から生まれた
  • 4
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    コロンビアに出現した「謎の球体」はUFOか? 地球外…
  • 7
    「流石にそっくり」...マイケル・ジャクソンを「実の…
  • 8
    冬ごもりを忘れたクマが来る――「穴持たず」が引き起…
  • 9
    【クイズ】韓国でGoogleマップが機能しない「意外な…
  • 10
    インスタントラーメンが脳に悪影響? 米研究が示す「…
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 6
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 7
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 8
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 9
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 10
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 10
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中