最新記事

北朝鮮

シンガポールの米朝蜜月は終わった──ポンペオ、手ぶらで帰る

2018年7月10日(火)16時45分
ダニエル・ラッセル

非核化の具体策を作るために訪朝したポンペオだったが成果はなかった(7月6日) Andrew Harnik/REUTERS

<トランプはシンガポールで金正恩と派手な見世物を演じたが、その後始末に平壌を訪れたポンぺオを待っていたのは障害物だらけのリアリティーだった>

マイク・ポンペオ米国務長官にとって、北朝鮮との交渉を進展させるというドナルド・トランプ米大統領の大胆な宣言を現実に変えるのは、決して簡単なことではなかった。7月6~7日にかけて平壌を訪問したポンペオには、幾つもの大きな障害があった。

彼が抱えていた問題の一部は、トランプ政権が自ら招いたものだ。タカ派で有名なジョン・ボルトン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)が非核化の期限を1年と発言したことに加えて、北朝鮮が核戦力を隠蔽しているという米情報当局の報告書がメディアに漏洩したことで、ポンペオはきわめて困難な立場に立たされていた。

北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長は、望むものは仲介者を通さずともトランプ本人から直接、手に入れることができると確信している。トランプは米朝首脳会談の後の記者会見で「高額」かつ「挑発的」な戦争ゲーム(米韓合同軍事演習)をやめ、いずれは在韓米軍を全面撤退させる計画を明らかにしていた。

これを受けて、金がトランプを「御しやすい相手」と考えたとしても無理はない。そしてトランプが側近をないがしろにする傾向があり、かつての側近の多くがホワイトハウスを去っていることを考えれば、金にとっては、大きな代償を払ってポンペオに譲歩する理由はない。

「進展は小出しに」が金ファミリーの戦略

ご記憶だろうか。レックス・ティラーソン前国務長官が北朝鮮との対話の可能性を模索して、トランプに「時間の無駄」と切り捨てられたことを。北朝鮮を先制攻撃する「ブラッディ・ノーズ(鼻血)作戦」を大統領に進言したH.R.マクマスター前大統領補佐官(国家安全保障問題担当)も事実上、更迭されたことを。あるいは、ジェームズ・マティス国防長官が在韓米軍と米韓合同軍事演習は必要不可欠だと繰り返し主張していたことを。

金は覚えている。そして彼は、米朝首脳会談の前にはアメリカ側の交渉担当者たちが核兵器や弾道ミサイルの放棄を書面で約束するよう強く求めていたものの、そんな約束を一切書かなくても、トランプはシンガポールで嬉々として合意文書に署名してくれたことを。

北朝鮮との交渉はいつだって難しい。金がそうなることを望んでいるからだ。アメリカは「些細な問題で煩わせろ」というのが、金ファミリーに伝わる戦略だ。そうすればアメリカはいつまで経っても「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化(CVID)」のような核心の問題に到達できないからだ。進展を小出しにすれば、小さな譲歩も大きく感じられる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

11月の基調的インフレ指標、加重中央値と最頻値が伸

ワールド

米、ナイジェリア上空で監視飛行 トランプ氏の軍事介

ビジネス

仏、政府閉鎖回避へ緊急つなぎ予算案 妥協案まとまら

ワールド

米大統領、史上最大「トランプ級」新型戦艦建造を発表
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 2
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 3
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 4
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 5
    【外国人材戦略】入国者の3分の2に帰国してもらい、…
  • 6
    「信じられない...」何年間もネグレクトされ、「異様…
  • 7
    週に一度のブリッジで腰痛を回避できる...椎間板を蘇…
  • 8
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 9
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 10
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 9
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 10
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中