最新記事

日本企業

JALとANA、「台湾」表記問題で見せたこだわり 中・台双方に配慮し試行錯誤

2018年7月31日(火)15時38分
劉 彦甫(東洋経済 記者)※東洋経済オンラインより転載

日系2社による表記変更が始まったのは6月上旬。台湾の大手紙「自由時報」は6月8日、JALとANAのサイト上における「台湾」の表記が「中国(台湾)」に変更されていると報じ、現地では一時的に中国の圧力に屈したのではとの見方が出た。2社は「意図したものではない」として、原因は契約していた海外の地図サイトが表記を変えたためだと説明。同日中にそのサイトの利用を中止すると、変更前の「台湾」表記が復活した。

とはいえ、変更前のままでは中国の通達に反したままだ。その後2社は、6月18日までに中国と香港向けのサイトのみ、表記を「中国台湾」に変更し、台湾や日本を含む他地域向けのサイトでは「台湾」表記を維持する"使い分け"を行った。

JALとANAの広報担当者は「中国と台湾やその他の地域のそれぞれの利用者にとって分かりやすい表記にした」と、使い分けに至った理由を説明。これについて複数の台湾研究者は、「日本の外交方針を十分に理解した最善の方法だった」とし、ほかの航空会社からは「今後の対応の参考になるかもしれない」と評価する声も出ていた。

「台湾にとって日本への感情は特別」

しかし、台湾の外交部(外務省)は2社を名指しして「厳正に抗議する」と発表。これ以前に海外航空会社が表記変更を行った際は、中国の行いを非難する形で台湾側は遺憾の意を表明していたが、日系2社には明確に怒りを示した。外交部の李憲章報道官は6月19日の記者会見で抗議の理由について、親日家の多さを念頭に「台湾の人たちにとって(日本への)感情は特別だ」と説明した。

newsweek_20180731_160750.jpg

JALとANAは最終的に中国、韓国、台湾に関して「東アジア」でひとくくりにし、域内は都市名のみの表記とする方式に変更した(画像:両社予約サイトをキャプチャ)

中国と台湾双方から板挟みにあった両社は7月24日、最終的に前述の通り、中国、台湾、韓国を「東アジア」という地域でひとくくりにして、都市名のみを表記する方法に変更した。「(各当局を含めて)皆が受け入れやすい表記方法」(ANA広報)であり、7月26日時点で中国民航局も両社の表記方法に対して指摘を行っている様子はなく、「事態は収束していく」(同)とみられる。

JALとANAがこれだけ対応を熟慮したのは、「歴史的、地理的な近さの意味で、台湾と中国に対応する機会が多かった」(ANA関係者)からでもある。

1972年に日本と中国が国交を正常化した際に、日本と台湾は断交。国交がなく、国家として承認されていない台湾にナショナルフラッグキャリア(国を代表する航空会社)であるJALの機体を飛ばすことは、中国への配慮から難しかった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエル軍、ハマス指導部を攻撃 カタール首都で爆

ワールド

バイル仏首相が正式辞任、内閣信任投票否決受け=政府

ビジネス

インドネシア新財務相「中銀と協力し流動性緩和」、 

ワールド

ネパール首相が辞任、反汚職デモ激化 首都空港が閉鎖
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 2
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 3
    エコー写真を見て「医師は困惑していた」...中絶を拒否した母親、医師の予想を超えた出産を語る
  • 4
    石破首相が退陣表明、後継の「ダークホース」は超意…
  • 5
    ドイツAfD候補者6人が急死...州選挙直前の相次ぐ死に…
  • 6
    もはやアメリカは「内戦」状態...トランプ政権とデモ…
  • 7
    「ディズニー映画そのまま...」まさかの動物の友情を…
  • 8
    世論が望まぬ「石破おろし」で盛り上がる自民党...次…
  • 9
    「稼げる」はずの豪ワーホリで搾取される日本人..給…
  • 10
    ロシア航空戦力の脆弱性が浮き彫りに...ウクライナ軍…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 3
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 4
    眠らないと脳にゴミがたまる...「脳を守る」3つの習…
  • 5
    【動画あり】9月初旬に複数の小惑星が地球に接近...…
  • 6
    「あのホラー映画が現実に...」カヤック中の男性に接…
  • 7
    「生きられない」と生後数日で手放された2本脚のダ…
  • 8
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 9
    「稼げる」はずの豪ワーホリで搾取される日本人..給…
  • 10
    「よく眠る人が長生き」は本当なのか?...「睡眠障害…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 6
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 7
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 8
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 9
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 10
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中