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超訳コーランの言葉で幸せの指南

2018年6月22日(金)17時20分
アルモーメン・アブドーラ(東海大学・国際教育センター准教授)

そこで、コーランの言葉を原文ないしは日本語訳で読んでも意味がつかめない人のために、私はある試みに挑んだ。コーランの数々の章の中から、誰にでも分かりやすそうなものをセレクトし、現代風に超訳することだ。いつの時代に読んでも、何歳になってもハッとさせられる、コーランの珠玉の言葉を超訳でここにご案内しよう。

「嫌なことこそ、良いことを運んでくれるかもしれない。また、好きなことこそ、悪いことを運んでくれるかもしれない」(雌牛章205)

イスラム教徒が日常生活の中で繰り返し使う言葉であり、全ての物事には「定めがある」という意味になる。分かりやすくするために、日常生活でこの言葉の意味が現れる場面を挙げてみよう。就職しようと思ってもなかなかできず、また断わりの手紙が届いた。また就職試験に落ちた......残念。たいていのアラブ人はこうつぶやく。「もしかしたら、この嫌なことこそ、自分にとって良いことにつながるかもしれないな」

一方、同じ場面で日本人だったらどうなのだろう。例えば、「あんなに事前に準備だってしたし、面接の受け答えだって良かったはず。もしかして自分の外見が悪いから就職できなかったのだろうか。それとももっと積極的に発言すべきだったのか。通勤時間がかかりすぎることも関係しているだろうか。こんなんだから彼女ともうまくいかないんだろうな~。就職が決まらないなんてカッコ悪いし、親にも紹介できないなんて思うのかな~」と考えたりするのではないか。

就職試験に落ちた理由など知ることはできないのに、自分の想像だけでどんどん深みにはまっていく経験は誰にでもあるだろう。または物事が予定通りにいかなかったとき、怒りをぶつける先がなくて他人を責めたり、自分や周りに失望したりして、なんとか失敗の犯人を見つけようとすることもあるだろう。でもそんなことをしても、かえって傷を深めるだけだったりする。

アラブでは不幸や不都合な出来事が身に降りかかったとき、「なんでこうなる!」と怒りの反応をみせた後、「もしかしたらこの嫌なことこそ、自分にとって良いことにつながるかもしれない」とすぐに前向きに考えようとする。 そうすると気持ちが落ち着いてくる。そして、「まあ仕方ない。そうなるようになっていた。自分はやれるだけのことはやったさ。次に進もう」と思える。

もちろん、自分がやりたいことがかなわなくてもいい、と思う人はいない。しかし、この考え方をもって生活すれば、日常生活のさまざまな場面や物事をあるがままに受け入れることが身に付いてくる。どんな大変な場面でも、何があっても、「仕方がない」と前向きに、悪く言えばのんきになれるのだ。

問題のない人生などありえない。だから幸せな人生を手に入れるには、問題の全てが消えるまで待つのではなく、その問題を受け入れて前向きな姿勢で臨む──これがイスラムの原形が諭す、イスラム流の生き方である。

almomen-shot.jpg【執筆者】アルモーメン・アブドーラ

エジプト・カイロ生まれ。東海大学・国際教育センター准教授。日本研究家。2001年、学習院大学文学部日本語日本文学科卒業。同大学大学院人文科学研究科で、日本語とアラビア語の対照言語学を研究、日本語日本文学博士号を取得。02~03年に「NHK アラビア語ラジオ講座」にアシスタント講師として、03~08年に「NHKテレビでアラビア語」に講師としてレギュラー出演していた。現在はNHK・BS放送アルジャジーラニュースの放送通訳のほか、天皇・皇后両陛下やアラブ諸国首脳、パレスチナ自治政府アッバス議長などの通訳を務める。元サウジアラビア王国大使館文化部スーパーバイザー。近著に「地図が読めないアラブ人、道を聞けない日本人」 (小学館)、「日本語とアラビア語の慣用的表現の対照研究: 比喩的思考と意味理解を中心に」(国書刊行会」などがある。


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