最新記事

米韓合同演習

米韓演習中止で金正恩氏が「大喜び」する本当の理由

2018年6月18日(月)12時57分
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト) ※デイリーNKジャパンより転載

金正恩氏 Jonathan Ernst-REUTERS

<米韓軍事演習は圧力だ。北朝鮮も、演習のふりして攻められてはたまらないのでそれ相応の準備をしなければならない。それが負担だったのだ>

毎年恒例の米韓合同軍事演習が、中止されるもようだ。米CNNは14日、米政府が8月に予定されていた「乙支(ウルチ)フリーダムガーディアン」の中止を近く発表する方針であると伝えた。トランプ米大統領が12日の米朝首脳会談で、両国の対話が行われる間は演習を中止すると表明していた。

これを受けて、米韓と日本は大騒ぎとなっている。たとえば朝日新聞は14日付で「演習中止で抑止力低下も......トランプ氏発言、落とし穴露呈」と報じた。ほかのメディアも、概ね同じ伝え方だ。

ではなぜ、演習の中止がそんなに問題なのか。

北朝鮮と米韓が対峙する軍事境界線は、世界有数の「ホットスポット」だ。この対立関係は、大小様々な衝突を生み、戦争の危険を惹起してきた。

(参考記事: 【動画】吹き飛ぶ韓国軍兵士...北朝鮮の地雷が爆発する瞬間

しかしそれが、容易に全面戦争にまで拡大しないのは、米韓側が継続的に北朝鮮を圧迫し、戦争遂行能力を削いでいたからにほかならない。

じわじわと体力を奪う敵の演習

米国と韓国は通常、3月と4月に合同軍事演習「キー・リゾルブ」「フォール・イーグル」を行う。今後も例年どおり続けば米軍からは最大1万7000人規模、韓国からは30万人超が参加する可能性があり、昨年は米軍から空母「カール・ビンソン」や原子力潜水艦「コロンバス」、最新鋭ステルス戦闘機F-35B、金正恩党委員長に対する「斬首作戦」への投入が想定される特殊部隊などが派遣された。

北朝鮮としては、演習のふりをして攻め込まれてはたまらないので、相応の備えをしなければならない。

そのため例年、12月に中隊(約150人)規模の冬季訓練を開始し、1月にはこれを1,000人前後の大隊規模に拡大。2月に近づくと10,000人余りの師団規模となり、3月に30,000~50,000人の軍団規模になる。このように軍の動員規模を大きくしながら、いつでも戦える態勢を整えるのだが、慢性的な経済難の中にある北朝鮮にとっては、これが相当に大きな負担なのだ。

北朝鮮が継続的に米韓合同軍事演習の中止を求めてきた裏には、このような事情がある。大規模な演習が抑止効果を生んでいるのも事実だが、じわじわと体力を奪われていく状況が、北朝鮮にとっては辛かったのだ。

(参考記事: 北朝鮮女性を苦しめる「マダラス」と呼ばれる性上納行為

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ゼレンスキー氏、ロシアが和平努力拒否なら米に長距離

ビジネス

ナスダックが取引時間延長へ申請、世界的な需要増に照

ビジネス

テスラ、ロボタクシー無人走行試験 株価1年ぶり高値

ワールド

インド、メキシコと貿易協定目指す 来年関税引き上げ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジアの宝石」の終焉
  • 4
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 5
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 6
    アダルトコンテンツ制作の疑い...英女性がインドネシ…
  • 7
    「なぜ便器に?」62歳の女性が真夜中のトイレで見つ…
  • 8
    「職場での閲覧には注意」一糸まとわぬ姿で鼠蹊部(…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    トランプが日中の「喧嘩」に口を挟まないもっともな…
  • 1
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 2
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 3
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 4
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 5
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 6
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 9
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中