最新記事

北朝鮮

脱北者の遺体を氷の上に放置......北朝鮮「国境警備隊」の猟奇的な実態

2018年5月17日(木)11時40分
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト) ※デイリーNKジャパンより転載

中朝国境の鴨緑江に掛かる橋の中国側ゲート Damir Sagolj-REUTERS

<死者に敬意も払わず遺体を平気で放置するような、反社会的とも言える悪習が蔓延した朝鮮人民軍の実態>

中朝国境の川・鴨緑江(アムロクカン)の岸辺に、殺伐とした光景が広がっているもようだ。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)によると、脱北に失敗して射殺された人々の遺体が次々と見つかっているという。

中国吉林省の消息筋がRFAに語ったところでは、「最近、北朝鮮との国境に面した長白県の川原に、北朝鮮人と見られる遺体が次々と見つかり、地元民が北朝鮮当局を非難している。(遺体は)脱北に失敗し、射殺された人々のようだ」という。

この辺りは、厳冬期には川面が凍結する。脱北者たちはその上を歩いて中国へと向かうのだが、遺体となって見つかった人々はその際に撃たれたのだろう。春になって氷が解け、下流へ流されながら、岸辺に打ち上げられたものと見られる。

「遺体をみつけた中国人たちは皆、北朝鮮当局に対する怒りを露わにしている。生きる道を求めて出てきただけの人たちを殺し、遺体さえ収容しないとはむごすぎる」(前出の消息筋)

死んだ人に敬意を払わず、遺体を平気で放置するような実態は、朝鮮人民軍(北朝鮮軍)内部における反社会的とも言える悪習が影響しているのかも知れない。

参考記事:北朝鮮女性を苦しめる「マダラス」と呼ばれる性上納行為

韓国の北韓人権情報センター(NKDB)が2月に発刊した「軍服を着た収監者~北朝鮮軍の人権実態報告書」によると、朝鮮人民軍(北朝鮮軍)内では兵士らに対する公開処刑が頻繁に行われているという。

報告書に収録された脱北者の目撃談のなかには、見せしめのために一度処刑した兵士の死体を他の兵士が集まっている場所まで運び、再度銃で撃ったというものや、橋梁の建設工事中の事故で死亡した兵士98人の遺体を収拾せず、セメントで埋めてしまったというものまであった。

参考記事:死体を大勢の前に運び...北朝鮮軍「公開処刑」の猟奇的な実態

北朝鮮におけるこのような人命軽視は、軍隊に限った話ではない。危険な工事現場では、必ずと言っていいほどこのようなことが起きる。

しかしやはり、軍隊のような閉鎖的な集団の中で一度このような悪習が生まれると、兵士たちは徐々に無感覚になり、「人の死」の意味を深く考えなくなるのだろうか。北朝鮮軍の軍紀びん乱は非常に根の深い問題だが、それでもまだ、上意下達の組織により統率されている限りはマシかもしれない。

仮に、現在の南北対話の流れが加速して軍縮が現実のものとなり、軍の統率がゆるんだとき、このような悪習により、北朝鮮社会が広く「汚染」されるようなことにならないよう祈りたい。

[筆者]
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト)
北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)、『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)、『北朝鮮ポップスの世界』(共著、花伝社)など。近著に『脱北者が明かす北朝鮮』(宝島社)。

※当記事は「デイリーNKジャパン」からの転載記事です。
dailynklogo150.jpg

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

台湾外交部高官、イスラエルを最近訪問=関係筋

ワールド

韓国、投資促進へ銀行・商業規制の緩和計画

ワールド

日米が共同飛行訓練、10日に日本海で 米軍のB52

ワールド

〔アングル〕長期金利2%接近、日銀は機動対応に距離
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア空軍の専門家。NATO軍のプロフェッショナルな対応と大違い
  • 2
    トランプの面目丸つぶれ...タイ・カンボジアで戦線拡大、そもそもの「停戦合意」の効果にも疑問符
  • 3
    「何これ」「気持ち悪い」ソファの下で繁殖する「謎の物体」の姿にSNS震撼...驚くべき「正体」とは?
  • 4
    死者は900人超、被災者は数百万人...アジア各地を襲…
  • 5
    【クイズ】アジアで唯一...「世界の観光都市ランキン…
  • 6
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 7
    「正直すぎる」「私もそうだった...」初めて牡蠣を食…
  • 8
    「安全装置は全て破壊されていた...」監視役を失った…
  • 9
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 10
    イギリスは「監視」、日本は「記録」...防犯カメラの…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 9
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 10
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中