最新記事

日中韓首脳会談

日中韓と日中首脳会談に見る温度差と中国の本気度

2018年5月10日(木)13時00分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

北朝鮮が中国外しをした時には、2002年の小泉首相の訪朝に見られるように、突然対日融和策を取る。それを見越した中国は、本気でそれを上回る対日融和策を講じ、北朝鮮を牽制するという態度に出ていると解釈すべきだろう。

日本にとっては、こちらから腰を低くしてお願いしなくとも、相手から寄ってくるという、願ってもない状況が来ている。

日本では自虐的に朝鮮半島問題で「日本外し」が進行し「日本は蚊帳の外」という論調が目立つが、筆者はそうは思わない。むしろ逆だ。北朝鮮も日本を必要とし、中国はもっと日本を必要としている。

それもあってか、多くのプロジェクトに関して日中の間で署名が成され、友好ムードが醸し出された。一帯一路経済構想への勧誘を全面に出せば、反感を買うだろうという節度も心得ているように見えた。

ただ、日中韓3ヵ国で写真撮影をするときに安倍首相が中韓に握手を求めたとき、文在寅大統領が満面の笑顔で応じたのに対し、李克強首相は、手は安倍首相の動きに委ねたものの、固い表情を全く崩さなかったところには、やはり限界を感じた。

アメリカのイラン核合意離脱に関する反応に関しても日本を評価

5月9日未明、トランプ大統領がイラン核合意からの離脱を宣言した。核合意のメンバー国の一員である中国は、トランプ大統領の一方的な離脱を激しく攻撃している。

中国外交部の耿爽(こうそう)報道官は、5月9日の定例記者会見で、「アメリカは国連安保理の第2231号決議を守るべきで、国際的な核不拡散システムや中東の平和安定維持を守り、政治的手段で問題解決に当たらなければならない」と力説している。

これは、北朝鮮に当てはめた場合、アメリカが約束を破る先例を示したのに等しいと、中国の少なからぬメディアがストレートに危惧している。実際、トランプ大統領は、これは北朝鮮においても起こり得ることだと威嚇しているので、ここでは中朝の接近を促す結果を招いている。

日本の河野外相もまた、イラン核合意に関して「今後も維持に向けて、関係国と緊密に協議していく」と、アメリカ追随ではない談話を発表しているのは、高く評価されていいだろう。

中国の中央テレビ局CCTVは、李克強の日中韓首脳会談を大きく扱うと同時に、イラン核合意からのアメリカの離脱表明を批判し、河野外相もアメリカの離脱に批判的であると、言葉を添えている。これもまた珍しい現象だ。

日本の位置づけ

国際社会における今後の日本の役割に関しては、米中朝韓が入り乱れて乱舞する中、日本は初めてと言っていいほど、悪くない位置づけにあると筆者の目には映る。それはひとえに、北朝鮮が多面相的要素を持っており、中朝関係がいびつな友好でしか結ばれていないことに起因することを認識しておきたいと強く思う。

これならば、習近平国家主席の訪日も安倍首相の訪中も可能になっていくだろう。但しそのとき肝に銘じてほしいのは、日本は決して「日本から切望する」という土下座的姿勢を示してはならないということだ。堂々と毅然として、対等に渡り合うことを心がけていないと、中国の戦術に嵌り、あとで手痛い目に遭うだろう。それだけは避けたい。


endo-progile.jpg[執筆者]遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『習近平vs.トランプ 世界を制するのは誰か』(飛鳥新社)『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版も)『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

この筆者の記事一覧はこちら≫

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

ロシア、日本の自衛隊統合演習に抗議 「国境近くで実

ワールド

トランプ氏、カナダとの貿易交渉再開を否定

ビジネス

情報BOX:大手証券、12月利下げを予想 FRB議

ワールド

米中エネルギー貿易「ウィンウィンの余地十分」=ライ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 5
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 6
    必要な証拠の95%を確保していたのに...中国のスパイ…
  • 7
    海に響き渡る轟音...「5000頭のアレ」が一斉に大移動…
  • 8
    【クイズ】12名が死亡...世界で「最も死者数が多い」…
  • 9
    【ロシア】本当に「時代遅れの兵器」か?「冷戦の亡…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 6
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 7
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 10
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 8
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 9
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中