最新記事

マネー

スイスフランの安全神話崩壊? ロシアの富豪たち、逃避資金引揚げも

2018年5月1日(火)15時42分

4月20日、長年にわたり、有事の資産避難先として、また税務当局の目を逃れる隠れ家としての地位を確立していたスイスフランの威信はいまや失われつつあるのかもしれない。写真はスイスフランとユーロ紙幣。2015年撮影(2018年 ロイター)

長年にわたり、有事の資産避難先として、また税務当局の目を逃れる隠れ家としての地位を確立していたスイスフランの威信はいまや失われつつあるのかもしれない。少なくとも、スイスや自国で摘発リスクにさらされているロシアの富豪たちにとっては。

スイスフランは19日、対ユーロで一時1.20スイスフランまで下落し、3年ぶりの安値を更新。この水準はかつて対ユーロの為替相場の上限だったが、2015年1月にスイス国立銀行(中央銀行)が突然この枠を撤廃し、いわゆる「スイスフランショック」を巻き起こした。

最近のスイスフラン安が特に注目を集めるのは、地政学的な緊張が急激に高まったタイミングと符合するからだ。かつては、緊張が高まれば、有事でも価値が変わらない安全資産の1つとして、スイスフランが買われることが常だった。

今年に入り、スイスフランはユーロに対して2.5%下落している。一方、やはり安全資産とみなされている金と円は、それぞれ5%近く上昇した。今月のシリアに対する米英仏3カ国による報復的ミサイル攻撃や、多くのロシア企業に壊滅的な影響を与える米制裁が実施されても、スイスフランの上昇にはつながらなかった。

その理由は単純だ。今年後半に欧州中央銀行(ECB)が債券購入プログラムを終了することで、金融政策を引き締めに転じた場合でも、スイス中銀は同調姿勢を示すことを拒んでいる。スイス中銀のトーマス・ジョーダン総裁は、超緩和政策の終了は検討課題としても上がっていないと強調している。

その結果、スイスフラン売りに賭ける動きを再燃させ、同通貨の突出した下落につながったとの声も出ている。米商品先物取引委員会(CFTC)によれば、スイスフランに対するネットショートポジションは14億スイスフラン(約1555億円)に達しており、1カ月前の2倍近くに膨らんでいる。

UBSアセット・マネジメントで通貨戦略を担当するジョナサン・デイビス氏は、対ユーロで「1.20台の前半」が適正水準だと述べ、その理由は「両中銀による金融政策トレンドの乖離が、スイスフラン安の方向に働くから」だと説明する。

バンクオブアメリカ・メリルリンチで欧州向けG10外為戦略担当ディレクターを務めるカマル・シャルマ氏は、対ユーロでのスイスフラン売りを推奨している。

「スイスフランの下落は見えないところで進んでいる。ユーロと円に対してさらに下落しても意外ではない」とシャルマ氏は言う。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシア高官、和平案巡り米側と接触 協議継続へ=大統

ワールド

ゼレンスキー氏、和平巡る進展に期待 28日にトラン

ワールド

前大統領に懲役10年求刑、非常戒厳後の捜査妨害など

ワールド

中国、米防衛企業20社などに制裁 台湾への武器売却
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 4
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 5
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 6
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 7
    「時代劇を頼む」と言われた...岡田准一が語る、侍た…
  • 8
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 9
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 10
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 5
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 6
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 7
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 8
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 9
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 10
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中