最新記事

北朝鮮

「習近平夫人よりキレイ」金正恩の自慢の美人妻に注目

2018年4月4日(水)11時20分
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト) ※デイリーNKジャパンより転載

右から中国の習近平国家主席夫妻と金正恩夫妻 Ju Peng/Xinhua/REUTERS

<初外遊に美貌の妻・李雪主を同伴した金正恩――若いファーストレディーを公の席に登場させてイメージアップを図ろうとしている>

北朝鮮の金正恩党委員長が3月25日から電撃的に北京を訪問し、中国の習近平国家主席と会談した。金正恩氏は李雪主(リ・ソルチュ)夫人を同伴したが、中国のネットユーザーの間では彼女に注目が集まっているという。

虐殺された芸術団員

今回の訪中における李雪主氏の同伴はある種のリスクをはらんでいた。2013年、親中派と見られていた張成沢(チャン・ソンテク)氏が粛清・処刑されて以降、北朝鮮では粛清の嵐が吹き荒れた。このなかで李雪主氏が所属していた銀河水管弦楽団もスキャンダル騒動に巻き込まれ、団員が虐殺された。

参考記事:「芸術団虐殺事件」に隠された金正恩夫人の男性スキャンダル

李雪主氏が訪中すれば、中国でも過去のスキャンダルが蒸し返される可能性があった。しかし、香港の英字紙サウス・チャイナ・モーニング・ポストによると、中国のネットユーザーの間で李雪主氏は概ね好感をもたれているという。

なかには、習近平氏の妻である彭麗媛氏と李雪主氏のファッションを比較し、「李雪主氏が美しく見えた」などの書き込みもあったが、中国当局の検閲によって削除されたと同紙は伝えた。

北朝鮮の最高指導者が、夫人同伴で外遊するのは初のケースだ。金正恩氏の祖父・金日成主席の最初の妻で金正日氏の実母である金正淑(キム・ジョンスク)氏は、国母として神格化されている。また、金日成氏の後妻である金聖愛(キム・ソンエ)氏は、一時的に公職に就いたことはあるものの、夫婦仲良く公の場に登場することはほとんどなかった。

金正日氏が妻を公の場に登場させたことは皆無だった。金正日氏は、「権力層に仕える女性」たちを選抜、管理する「5課処女」というシステムをつくりあげるほど女性に対する執着心は相当強かった。そのためか、女性遍歴が複雑で妻の存在を明かせなかったようだ。

一方、金正恩氏は早々と李雪主氏の存在を明らかにしていた。最高指導者に就任翌年の2012年には、遊園地の竣工式に李雪主氏とともに訪れ、北朝鮮ウォッチャーを驚かせた。

参考記事:【写真特集】李雪主――金正恩氏の美貌の妻

そして、今回は初外遊に夫人同伴で臨んだのである。その狙いは、世界的に見ても若いファーストレディー・李雪主氏を公の場に登場させて、自身のネガティブなイメージを払拭させることだろう。中朝に限らず、国際外交でファーストレディーに求められるのはイメージアップに尽きる。

また、金正恩氏が外遊で抱えるであろうストレスを解く役割もあるかもしれない。金正恩氏は習近平氏との会談で、北朝鮮では決して見せない硬い表情をしていた。トイレ付きと噂されている専用ベンツまで持ち込んだようだが、会談だけでなく訪中時の精神的プレッシャーは尋常ではなかっただろう。

金正恩氏が李雪主氏の同伴などを通じて、過去の北朝鮮のイメージを変えようとしていることは疑いようがない。今月27日に開かれる南北首脳会談、5月に予定されている米朝首脳会談でも、あっと驚く演出で周囲を驚愕させるかもしれない。

[筆者]
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト)
北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)、『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)、『北朝鮮ポップスの世界』(共著、花伝社)など。近著に『脱北者が明かす北朝鮮』(宝島社)。

※当記事は「デイリーNKジャパン」からの転載記事です。
dailynklogo150.jpg

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米バークシャーによる株買い増し、「戦略に信任得てい

ビジネス

スイス銀行資本規制、国内銀に不利とは言えずとバーゼ

ワールド

トランプ氏、公共放送・ラジオ資金削減へ大統領令 偏

ワールド

インド製造業PMI、4月改定値は10カ月ぶり高水準
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 5
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 6
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 7
    目を「飛ばす特技」でギネス世界記録に...ウルグアイ…
  • 8
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 9
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中