最新記事

人権問題

「殺された」米大学生の両親、北朝鮮を人権侵害で提訴

2018年4月27日(金)17時30分
クリスティナ・マザ

2016年に些細な罪で拘束され、自白を強要されて平壌で記者会見するアメリカ人大学生オットー・ワームビア(当時22) KCNA-REUTERS

<北朝鮮で過酷な拷問を受け帰国後死亡したオットー・ワームビアの両親が、北朝鮮を提訴。非核化一辺倒になりがちな首脳会談に一石を投じ、トランプに行動を促した>

昨年6月に死亡したアメリカ人大学生オットー・ワームビア(当時22)の両親が4月26日、北朝鮮の金正恩独裁政権が息子を拘束し、過酷な拷問を与えて殺害したとして、北朝鮮を相手取り、米連邦裁判所に損害賠償を求める訴えを起こした。

ワームビアは昨年6月に脳に損傷を受けた昏睡状態で解放され、アメリカに帰国して約1週間後に死亡した。拘束中のワームビアの身に何が起き、なぜ昏睡状態に陥ったのか、北朝鮮は一切説明していない。彼は2016年1月、観光ツアーで平壌を訪れた際、ホテルにあった政治プロパガンダのポスターを盗んで逮捕され、国家転覆罪で有罪となり約1年半拘束された。

父親のフレッド・ワームビアは提訴後、声明を発表した。「息子は金正恩の人質にとられ、政治目的で囚人として拘束され、とてつもなく残酷な拷問を受けた。金正恩政権は故意に息子の命を奪っておきながら、無実を装っている。この訴訟は、息子とわれわれ家族を野蛮に扱った北朝鮮に責任を問うものだ」

訴訟は、6月上旬に予定される金正恩とドナルド・トランプ米大統領の米朝首脳会談を睨むタイミングで提起された。しかも、歴史的な南北首脳会談の前日だ。

残る3人のアメリカ人を解放させよ

このタイミングで北朝鮮の人権問題がクローズアップされれば、アメリカは対北朝鮮で強硬姿勢をとらざるをえなくなり、米朝対話は頓挫しかねない、と指摘する専門家もいる。トランプは北朝鮮をめぐる発言で事あるごとに、ワームビアが死亡した問題を取り上げてきた。米朝首脳会談では北朝鮮の人権侵害を提起する、とも誓ってきた。

北朝鮮で長年続く人権侵害とアメリカ人市民の拘留問題は、北朝鮮の非核化に世界の注目が集まるあまり見過ごされがちだったが、訴訟がきっかけで今後は焦点が当たるだろう、と専門家は言う。

「ワームビアの両親による訴訟は南北首脳会談の日を狙ったもので、北朝鮮問題は非核化だけでないことを思い出させる」と、米ワシントンの公共政策シンクタンク、ナショナル・インタレスト・センターのハリー・カジアニス国防研究部長は本誌に語った。「もし北朝鮮が普通の国のように扱われたければ、そのように振舞わなければならない。この訴訟は、簡単に水に流せない過去の犯罪行為の責任を問うものだ」

カジアニスはさらに続けた。「米朝首脳会談の前に、まだ北朝鮮に拘束されているアメリカ人3人を健康な状態で解放させるのは絶対条件だ。それができないなら、トランプは金に会うべきではない」

(翻訳:河原里香)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

北朝鮮、日本の核兵器への野心「徹底抑止」すべき=K

ワールド

米、3カ国高官会談を提案 ゼレンスキー氏「成果あれ

ワールド

アングル:トランプ政権で職を去った元米政府職員、「

ワールド

日中双方と協力可能、バランス取る必要=米国務長官
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦い」...ドラマ化に漕ぎ着けるための「2つの秘策」とは?
  • 2
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 6
    70%の大学生が「孤独」、問題は高齢者より深刻...物…
  • 7
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 8
    中国最強空母「福建」の台湾海峡通過は、第一列島線…
  • 9
    ロシア、北朝鮮兵への報酬「不払い」疑惑...金正恩が…
  • 10
    ウクライナ軍ドローン、クリミアのロシア空軍基地に…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 9
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 8
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中