最新記事

ロシア

プーチン大帝「汚職撲滅」は、見せ掛けだけのイメージ戦略

2018年3月17日(土)13時40分
マーク・ベネッツ(モスクワ在住ジャーナリスト)

magw180317-putin02.jpg

ナワリヌイ(中央)は政治家の汚職疑惑に対する告発を加速させている Maxim Shemetov-REUTERS

ロシアでの詐欺・横領被害額は毎年、数百億ドル規模に上る。国内唯一の独立系世論調査機関、レバダセンターが17年発表した世論調査では、汚職横行の責任はプーチンにあると回答した人の割合が67%、政府は「完全に」または「相当な程度まで」腐敗していると考える人の割合は80%近くに達した。

国民の怒りは高まっている。モスクワにあるシンクタンク、経済・政治改革センターによれば、ロシア各地ではこの数カ月間に抗議デモ件数が急増。「社会的対立や労働関係のデモが増加している一因は汚職にある」と、同センターが17年11月に発行した報告書は指摘する。

拍車を掛けているのが、反体制指導者アレクセイ・ナワリヌイが展開する汚職追及活動だ。

ナワリヌイが設立した反腐敗財団は17年3月、ドミトリー・メドベージェフ首相の不正蓄財を告発する動画を公開。再生回数は2650万回を超えている。動画公開後、ロシアでは抗議デモが繰り返され、17年は1500人以上が逮捕された。

「当局にとっては、汚職との戦いの主役は今も自分たちだと示すことが極めて重要だ」。国際的な汚職監視団体、トランスペアレンシー・インターナショナル(TI)ロシア支部のイリヤ・シュマノフ副理事長はそう語る。「彼らは本気で行動する姿勢を見せようとしている」

大統領選を控えて、その課題は急務になっている。プーチンの対抗馬は事実上皆無だが、政府は正統性を確保するため「投票率70%、得票率70%以上」での勝利という目標の達成に必死。だからこそ「選挙戦中に大量の政治的得点を稼がなければならないと分かっている」と、政治コンサルタントのアバス・ガリャモフは言う。

国民を納得させられず

ロシア政府が、政治腐敗の蔓延とそれが招く批判を懸念するのは今が初めてではない。

11年12月に実施された下院選では与党「統一ロシア」が不正に勝利した疑惑を受け、モスクワでは大規模な抗議デモが行われた。13年にかけて続いた一連のデモは次第に、政府上層部の汚職疑惑に焦点を当てたものに変化。厳正に管理されているはずの政治体制への抗議は、前代未聞の出来事だった。

抗議の嵐を静めたのは14年のクリミア併合だ。愛国主義が盛り上がり、プーチンの支持率は記録的なレベルに達した。

その熱狂が過ぎ去ったとき、政府は再び、国民の間で募る腐敗への怒りに対処することを迫られた。思い付いた解決策が、ガリャモフいわく「地方政府高官を対象に汚職一掃作戦を行い、逮捕者に長期刑を科す」ことだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=ドル上昇、一時150円台 米経済堅調

ワールド

イスラエル、ガザ人道財団へ3000万ドル拠出で合意

ワールド

パレスチナ国家承認は「2国家解決」協議の最終段階=

ワールド

トランプ氏、製薬17社に書簡 処方薬価格引き下げへ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ関税15%の衝撃
特集:トランプ関税15%の衝撃
2025年8月 5日号(7/29発売)

例外的に低い日本への税率は同盟国への配慮か、ディールの罠か

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから送られてきた「悪夢の光景」に女性戦慄 「這いずり回る姿に衝撃...」
  • 2
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 3
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 4
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 5
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目…
  • 6
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 7
    一帯に轟く爆発音...空を横切り、ロシア重要施設に突…
  • 8
    街中に濁流がなだれ込む...30人以上の死者を出した中…
  • 9
    【クイズ】2010~20年にかけて、キリスト教徒が「多…
  • 10
    50歳を過ぎた女は「全員おばあさん」?...これこそが…
  • 1
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 2
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの習慣で脳が目覚める「セロ活」生活のすすめ
  • 3
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜つくられる
  • 4
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
  • 5
    航空機パイロットはなぜ乗員乗客を道連れに「無理心…
  • 6
    中国が強行する「人類史上最大」ダム建設...生態系や…
  • 7
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから…
  • 8
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 9
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目…
  • 10
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 3
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 4
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 5
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの…
  • 6
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは…
  • 7
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜…
  • 8
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 9
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 10
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中