最新記事

貿易戦争

トランプ政権の輸入規制で世界貿易・投資縮小の恐れ 各国対抗措置が鍵

2018年3月10日(土)14時02分

3月9日、米国による鉄鋼・アルミニウム製品への輸入関税の実施は、各国が対抗措置を幅広く打ち出せば、貿易戦争の激化を招き、世界経済の成長にとって足かせとなるリスクが専門家から指摘されている。写真は輸入関税について発表するトランプ米大統領。ホワイトハウスで8日撮影(2018年 ロイター/Leah Millis)

米国による鉄鋼・アルミニウム製品への輸入関税の実施は、各国が対抗措置を幅広く打ち出せば、貿易戦争の激化を招き、世界経済の成長にとって足かせとなるリスクが専門家から指摘されている。

自由貿易のルールを無視する行為がまかり通る影響は、対米貿易・直接投資の消極化を通じて米国孤立化を招く恐れがあるほか、高成長で隠されてきた世界の構造問題を再びあぶりだす懸念も浮上している。

注目される対抗関税の範囲、貿易量減少のリスクも

トランプ米大統領が鉄鋼・アルミニウムの輸入規制に署名したことを受けて、日本の貿易の実態に詳しいある関係者は「どの国がどんな内容の対抗措置を取るのかに注目している」と指摘した。

幅広い品目で報復関税が設定されれば、米国向け輸出分が世界の需給バランスを崩し、ひいては世界経済の減速につながりかねないためだ。

米国が輸入規制をかける鉄鋼・アルミニウム自体、航空機からビール缶まで幅広い製品に使用されているため、該当する製品を生産している世界中のメーカーは、輸出先を米国から他へシフトせざるを得なくなる。

さらに各国の対抗措置の品目が農産品や他の工業製品まで広がれば、世界の貿易戦争につながり、貿易量が減少していくことも懸念される。

自由貿易を前提に、世界の貿易額(輸出額総額)は2000年代に入り6兆ドルから14年に18兆ドルと約3倍の規模に拡大した。

だが、米国以外の国が、鉄・アルミニウムだけでなく、幅広い品目を対象に報復措置を実行すれば、当該製品で需給の緩みが発生し、在庫調整に伴う成長率の鈍化という危機シナリオの可能性が高まる。

既にEU欧州委員会のモスコビシ委員(経済・財務・税制)は、米国産オレンジやたタバコ、バーボンウィスキーなどに関税を適用すると述べている。また、中国が大豆やコーリャンなど米国から輸出されている農産品に対抗関税を課すとの観測もある。

国際通貨基金(IMF)は今年1月、18年と19年の世界経済見通しを3.9%に引き上げた。米国の税制改革が大きな理由とされたが、関税に伴う価格上昇や、直接投資の減退といったダメージが米国を襲うという懸念もささやかれている。

ただ、北米自由貿易協定(NAFTA)の締結国であるカナダとメキシコは関税の対象国から除外され、悪影響の程度が緩和されそうだ。 

SMBC日興証券・チーフマーケットエコノミストの丸山義正氏の試算によると、例外なき関税実施では、鉄鋼が8.5%ポイント、アルミニウムは9.1%ポイントのコスト上昇になるが、メキシコ、カナダの除外で、鉄鋼が6.3%ポイント、アルミニウムは5.1%ポイントとコスト上昇幅が圧縮される。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

11月百貨店売上は0.9%増で4カ月連続プラス、イ

ビジネス

物価目標「着実に近づいている」と日銀総裁、賃上げ継

ビジネス

午後3時のドルは155円後半で薄商い、日銀総裁講演

ワールド

タイ11月輸出、前年比7.1%増 予想下回る
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 2
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足度100%の作品も、アジア作品が大躍進
  • 3
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...どこでも魚を養殖できる岡山理科大学の好適環境水
  • 4
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 5
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これま…
  • 6
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 7
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 8
    ゴキブリが大量発生、カニやロブスターが減少...観測…
  • 9
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 10
    「時代劇を頼む」と言われた...岡田准一が語る、侍た…
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 4
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 5
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 10
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 8
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中