最新記事

スキャンダル

慈善団体オックスファムの買春を大目に見るな

2018年2月23日(金)15時45分
ダニエル・ハナン(ジャーナリスト)

ハイチ地震の被災地での買春のほかにレイプなどの疑惑もある Jonathan Torovnik/GETTY IMAGES

<職員がハイチの被災地やチャドの支援先で女性を買春。言語道断の行動になぜ世論は沈黙しているのか>

英労働党は事件について正式にコメントせず、怒りのツイートの少なさは驚くほど。セクハラや性犯罪の告発で権力の座にある男性を脅かした「#MeToo(私も)」のようなキャンペーンも起きていない......。それが、イギリスに本部がある国際協力団体オックスファムのスキャンダルに対する現時点での反応だ。

貧困問題に取り組むオックスファムの職員が、10年に大地震に見舞われたハイチの被災地やチャドなどで買春、レイプ、性的虐待を行っていたのが明らかになったのは2月上旬のこと。もちろん、政党が全てのニュースに声明を出すのは無理だし、どれほど怒れる活動家もあらゆる問題にひたすら憤怒することはできない。だが、それにしてもこの「沈黙」は奇妙だ。

1月、英政財界などの有力者の団体プレジデンツ・クラブの慈善夕食会で、一部の出席者が接客係の女性にわいせつ行為をしたと判明したときはどうだったか。メディアは事件の話題一色になり、新事実が報じられるたびに、ソーシャルメディアでは怒りの大きさを競い合うかのように激しい批判が噴出した。

富裕層が集うプレジデンツ・クラブが、男性会員限定で開いた夕食会での出来事は低俗そのものだった。接客係の体を触ったり性的誘いをかけたりした愚かな男たちは、非難の集中砲火を浴びて当然だ。

スキャンダルの本質は

それでも、どう考えてもオックスファムの事件のほうがずっとひどい。英政府の助成金を受けている事実を脇に置いても、今回の事件はまるでレベルが違う。接客係に対するセクハラは言うまでもなくとがめられるべきだ。しかし無防備な状態に置かれた被災地の女性を、支援に駆け付けたはずの人間が性的に搾取するのは極悪非道だ。

被害者の立場を念頭に、相対的に判断しなければならないと(左派にありがちな)主張をしようと、オックスファム職員の行動の非道さは変わらない。確かに男性有力者ばかりの場で、ウエートレスとして働く女性の立場は比較的弱い。だが被災地で食べ物にも事欠く少女と、食事や避難所の提供者として舞い降りた「救い主」の立場の差とは比べものにならない。

なのに、なぜ怒りの声が燃え上がらないのか。わいせつ行為の発覚を受け、プレジデンツ・クラブは解散に追い込まれた。一方でオックスファムは活動を続け、即座に弁明してくれる擁護者までいる。オックスファムは世界中で多くの善行をしている、事件はごく少数の悪者の仕業であってその場で報告された、などなど。正しい対応はオックスファムへの助成金を増額することだ、と発言したコラムニストすらいる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=ほぼ横ばい、経済指標と企業決算に注目

ビジネス

USスチール買収計画の審査、通常通り実施へ=米NE

ワールド

イラン外相、イスラエルのさらなる軍事行動を警告 「

ビジネス

無視できない大きさの影響なら政策変更もあり得る=円
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の衝撃...米女優の過激衣装に「冗談でもあり得ない」と怒りの声

  • 3

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 4

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 5

    「イスラエルに300発撃って戦果はほぼゼロ」をイラン…

  • 6

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 9

    ヨルダン王女、イランの無人機5機を撃墜して人類への…

  • 10

    紅麴サプリ問題を「規制緩和」のせいにする大間違い.…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 4

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 5

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 9

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 10

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中