最新記事

北朝鮮

妹・金与正を「アイドル化」した金正恩のメディア戦略

2018年2月20日(火)13時45分
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト) ※デイリーNKジャパンより転載

平壌市民は金与正の話題でもちきり Yonghap/REUTERS

<金与正の韓国訪問を北朝鮮メディアは大きく報道、これも金正恩の新たなメディア戦略なのか>

北朝鮮の朝鮮労働党機関紙・労働新聞は、金永南(キム・ヨンナム)最高人民会議常任委員長と、金正恩党委員長の妹・金与正(キム・ヨジョン)党第1副部長ら高位級代表団が、平昌冬季五輪に合わせて韓国を訪れたことを写真入りで大きく報じた。

これを見た平壌市民が、様々な反応を見せている。デイリーNK内部情報筋によれば、「平壌の地下鉄やバスの車内では、金与正同志の南朝鮮(韓国)訪問の話があちこちから聞こえる。人が集まったかと思えば、金与正同志の話ばかりだ」という。

たしかに、金王朝の「プリンセス」が笑顔を振りまく写真を多数紹介するスタイルは、かつてのおカタいだけの北朝鮮メディアにはなかった手法だ。その新しい宣伝戦略が、金与正氏を「アイドル化」しているのかもしれない。

<参考記事:【写真】金与正氏の存在感が増している

そして、そうしたメディア戦略はまず間違いなく、金正恩氏が直接統括している。そうでもなければ、北朝鮮メディアが金正恩氏の「ヘンな写真」を次々と公開できるはずがない。

<参考記事:金正恩氏が自分の「ヘンな写真」をせっせと公開するのはナゼなのか

また、金与正氏への注目が高まる裏では、北朝鮮の人々の次のような期待が作用してもいる。

平壌市民は、硬直状態に陥っていた南北関係の改善に注目している。「民族の悲願である南北統一」などという高尚な理由からではない。韓国製品の販売、所有、韓流ドラマ、映画の視聴に対する厳しい取り締まりが緩和されるかもしれないという、とても現実的な望みからだ。

「南のものは何から何まで敵対視する状況が続いてきたが、(金正恩氏が)実の妹を派遣したのを見て『新たな局面』が開けるのではないかという話が飛び交っている。韓国製品を自由に売り買いし、韓流ドラマを自由に見られる日が早く来て欲しいという人々の本音が表れてきた」(情報筋)

北朝鮮当局はドラマ、映画、バラエティなどの韓流コンテンツへの取り締まりを強化し、拷問を苦にして命を絶つ人も出ている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国最新空母「福建」、台湾海峡を初めて通過=台湾国

ワールド

トランプ氏、ベネズエラ出入港の制裁対象タンカー封鎖

ビジネス

米テスラ、カリフォルニア州で販売停止命令 執行は9

ビジネス

世界の投資家、過去3年半で最も強気 BofA調査
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を変えた校長は「教員免許なし」県庁職員
  • 4
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 5
    「住民が消えた...」LA国際空港に隠された「幽霊都市…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    【人手不足の真相】データが示す「女性・高齢者の労…
  • 8
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 9
    FRBパウエル議長が格差拡大に警鐘..米国で鮮明になる…
  • 10
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 8
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中