最新記事
インタビュー

アッバス議長顧問「パレスチナ和平に日本も一役買ってほしい」

2018年2月15日(木)18時00分
アルモーメン・アブドーラ(東海大学・国際教育センター准教授)

――パレスチナ問題を一言で表現するなら?

パレスチナはわれわれの国であり、また手放すつもりは絶対ありません。われわれが望んでいるのはイスラエルを追い払うことではなく、むしろイスラエルとともに平等で平和な暮らしを実現することです。

かつて150万人だったパレスチナ人の人口は現在、国内だけで660万人に上り、海外で暮らす難民を含むと1260万人以上になります。そのうちの160万人がイスラエル国籍を持ち、イスラエル社会の一員として暮らしています。われわれはイスラエルと1つの国で暮らすか、パレスチナとイスラエルの2つの国で平和に暮らすかのいずれかの選択を受け入れ、パレスチナでの和平を実現したいと思っています。一方、イスラエルはパレスチナの全てが自分たちのものだと主張し、われわれの領土をどんどん盗み、われわれを追い出そうとしているのです。

――トランプ米大統領はエルサレムをイスラエルの首都として公式に認定するとしましたが、パレスチナ市民の反応は極めて冷静だった印象があります。80年代のようにインティファーダーが起こったわけでもない。パレスチナ人の抵抗のスタイルは変わったのでしょうか。

私たちはトランプ大統領とその決定に対して、最大限の表現と行動で「NO」とはっきり拒絶しました。現代史においてもアッバス議長のように、イスラエル首都認定というアメリカの決定を拒絶したパレスチナ元首はいません。

――今後のイスラエルとの和平交渉で期待できる人物は?

残念ながら1人もいません。かつてはイツハク・ラビン元首相のような平和を愛した人間もいましたが、彼が(95年に)暗殺されてから、またイスラエルでベンヤミン・ネタニヤフが(09年に)政権を取って以降はその面影もありません。

――日本はかつて宿敵だったアメリカと同盟国となった、数少ない例の1つです。将来、パレスチナとイスラエルが、アメリカと日本のように友好的なパートナー関係を築く可能性はあると思いますか。

もちろんその可能性は大いにあります。かつて、そういう可能性を思わせるところまで近づいた時期もありました。(オスロ合意のあった)93年から96年まではパレスチナ人とイスラエル人が行き来していましたし、ガザ地区とその周りのイスラエル入植地の家族が交流し、お互いの子供たちがホームステイしたりもしていた。平和実現まであと一歩のところでした。

――日本の若者に伝えたいことはありますか。

私たちパレスチナ人はあなたたちのことをもっと知りたいですし、お互いに知的な関係を築いていきたいと望んでいます。

80年代は、経済発展を成し遂げた日本の話題で世界中のマスコミが湧いていました。それを見た私は、ひょっとして、これから私たちの目指すべき新しいモデルとなるのは日本なのかもしれないと思い、日本に関する本を片端から読み漁り「日本」という国を勉強しました。私は、アラブ人が日本のようなユニークなモデルを検証し、学ぶべきだと昔も今も思うのです。

***


パレスチナ人は和平実現を心から望んでいると、想いの詰まった彼の言葉からはひしひしと伝わってくる。司馬遼太郎は著書『この国のかたち』(文芸春秋)で「日本史には英雄がいないが、統治機構を整えた人物はいた」と記している。

今のパレスチナに必要なのは英雄になれる人物よりも、パレスチナ和平と国家樹立に向けたマスタープランを作り、統治機構を整えられる力なのかもしれない。和平実現やその先の自立した経済などさまざまな課題について自ら備えを用意し、多元的権力構造の新たな世界で多くのパートナーとの協力関係を力にして、確実に和平を実現してほしい。

almomen-shot.jpg【執筆者】アルモーメン・アブドーラ

エジプト・カイロ生まれ。東海大学・国際教育センター准教授。日本研究家。2001年、学習院大学文学部日本語日本文学科卒業。同大学大学院人文科学研究科で、日本語とアラビア語の対照言語学を研究、日本語日本文学博士号を取得。02~03年に「NHK アラビア語ラジオ講座」にアシスタント講師として、03~08年に「NHKテレビでアラビア語」に講師としてレギュラー出演していた。現在はNHK・BS放送アルジャジーラニュースの放送通訳のほか、天皇・皇后両陛下やアラブ諸国首脳、パレスチナ自治政府アッバス議長などの通訳を務める。元サウジアラビア王国大使館文化部スーパーバイザー。近著に「地図が読めないアラブ人、道を聞けない日本人」 (小学館)、「日本語とアラビア語の慣用的表現の対照研究: 比喩的思考と意味理解を中心に」(国書刊行会」などがある。

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを
ウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

ニューズウィーク日本版 日本時代劇の挑戦
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年12月9日号(12月2日発売)は「日本時代劇の挑戦」特集。『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』 ……世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』/岡田准一 ロングインタビュー

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米人員削減、11月は前月比53%減 新規採用は低迷

ビジネス

英中銀、プライベート市場のストレステスト開始 27

ワールド

中国、レアアース輸出ライセンス合理化に取り組んでい

ワールド

ウクライナ南部に夜間攻撃、数万人が電力・暖房なしの
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 2
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国」はどこ?
  • 3
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与し、名誉ある「キーパー」に任命された日本人
  • 4
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 5
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 6
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 7
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 8
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 9
    台湾に最も近い在日米軍嘉手納基地で滑走路の迅速復…
  • 10
    見えないと思った? ウィリアム皇太子夫妻、「車内の…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 4
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 5
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 6
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 7
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 8
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 9
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 10
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中