最新記事

アメリカ政治

ロシア疑惑捜査、トランプによる機密文書公開「騒動」の背景

2018年2月3日(土)10時01分

2月1日、米ホワイトハウス高官は、米大統領選へのロシア干渉疑惑を捜査する連邦捜査局(FBI)と司法省の内部に、トランプ大統領に対する偏見があると非難する内容の共和党機密文書について、公開を容認することを議会に通達する見通しであると明らかにした。ワシントンのFBI本部で撮影(2018年 ロイター/Jim Bourg)

米ホワイトハウス高官は1日、米大統領選へのロシア干渉疑惑を捜査する連邦捜査局(FBI)と司法省の内部に、トランプ大統領に対する偏見があると非難する内容の共和党機密文書について、公開を容認することを議会に通達する見通しであると明らかにした。

以下に、騒動のポイントをまとめた。

<機密文書には何が書かれているのか>

4ページにわたるこの機密文書は、下院情報特別委員会のデビン・ニューネス委員長(共和党)の依頼で、同委員会の共和党議員らが作成したもの。

関係筋によると、同文書は、FBIと司法省が昨年3月、大統領選でトランプ陣営の顧問を務め、ロシアと何度も接触している石油業界のコンサルタント、カーター・ペイジ氏に対する通信傍受を認める令状を延長しようと、外国情報活動監視裁判所の判事を誤った方向に導いたとして非難している。

また文書は、民主党全国委員会が一部資金提供を行い、英国の元諜報員クリストファー・スティール氏がまとめたトランプ氏とロシアとの関係に関する調査報告書に基づいて令状を要請していることを、FBIと司法省が判事に伝えなかったと非難している。

スティール氏の報告書には、トランプ氏とロシアとのつながりについて、物議を醸すような内容も数多く含まれている。トランプ氏は同報告書を「偽物」と一蹴し、自身の選挙陣営とロシアとの共謀疑惑を否定している。

共和党議員は、スティール氏の報告書と民主党全国委員会との関係や、オバマ大統領在任中に行われたトランプ氏側近への監視を重大視しており、民主党こそ連邦政府や議会の調査を受けるべきと主張している。

<文書はなぜ問題か>

民主党は、共和党がモラー特別検察官率いる捜査の信頼性を損なうためにこの機密文書を利用しかねないとしている。モラー氏の捜査は、政権を脅かしかねない同捜査に対し、トランプ大統領が司法妨害を行った可能性についても調べている。

民主党議員は、トランプ氏側の関係者が同氏を守るために文書を利用し、モラー特別検察官や、同氏を任命したローゼンスタイン司法副長官を解任する口実を大統領にを与えようとしているとみている。大統領は、昨年5月にコミーFBI長官(当時)を解任している。

<文書が公開されたらどうなるか>

機密文書の公開は、民主党と共和党の分断を悪化させ、ロシア疑惑に関する議会調査でどのような結果が出ようとも、その信頼性を失わせる可能性がある。

また、長年保たれてきた議員と情報機関との協力関係を弱体化させる可能性がある。これまで情報機関は、絶対に公にはしないという了解の下で、議会と機密情報を共有してきた。FBIは、共和党機密文書は正確性に問題があるとして「深刻な懸念」を表明した。司法省も、文書公開は機密情報を危険にさらす恐れがあるとしている。

<情報特別委員会の役割とは>

モラー特別検察官が刑事捜査を行う一方、議会では、下院の情報特別委員会など3つの委員会がロシア疑惑を調査している。

機密文書を巡る論争は、情報特別委員会内における民主党と共和党の対立をさらに悪化させている。委員会メンバーの民主党議員は、共和党議員がトランプ大統領を守るため、スティール氏の報告書とペイジ氏の通信傍受に執拗にこだわっていると非難。それに対し、共和党議員は不正を公表したいだけだと反論している。

委員会メンバーの民主党議員は共和党文書に対抗する文書を作成したが、共和党側が投票で公開を阻止した。

(翻訳:伊藤典子 編集:山口香子)

Patricia Zengerle

[ワシントン 1日 ロイター]


120x28 Reuters.gif

Copyright (C) 2018トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

インド・カナダが首脳会談、2年間の緊張関係を修復へ

ワールド

ウクライナ各地に大規模攻撃、18人死亡 首都の死者

ビジネス

トランプ氏、TikTok米事業売却期限延長へ 3回

ワールド

韓国大統領、石破首相と会談 「未来志向で協力」呼び
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:コメ高騰の真犯人
特集:コメ高騰の真犯人
2025年6月24日号(6/17発売)

なぜ米価は突然上がり、これからどうなるのか? コメ高騰の原因と「犯人」を探る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロットが指摘する、墜落したインド航空機の問題点
  • 2
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越しに見た「守り神」の正体
  • 3
    イタリアにある欧州最大の活火山が10年ぶりの大噴火...世界遺産の火山がもたらした被害は?
  • 4
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 5
    50歳を過ぎた女は「全員おばあさん」?...これこそが…
  • 6
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 7
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?.…
  • 8
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 9
    コメ高騰の犯人はJAや買い占めではなく...日本に根…
  • 10
    ホルムズ海峡の封鎖は「自殺行為」?...イラン・イス…
  • 1
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロットが指摘する、墜落したインド航空機の問題点
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 4
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 5
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタ…
  • 6
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 7
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?.…
  • 8
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 9
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 6
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 7
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 8
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 9
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中