最新記事

台湾映画

台湾で政治映画がタブーな理由

2018年1月5日(金)16時40分
アンソニー・カオ(映画評論サイト「シネマエスケーピスト」創設者)

蔡政権は「清算」に意欲的

台湾は民主主義に移行したが、本格的な過去の清算は行われなかった。確かに過去30年間、歴代の政権は2.28に関する報告書を出し、その後の独裁政権期を「白色テロ」時代と認め、新しい追悼記念碑の建設や基本的補償、公式追悼行事を行ってきた。だが2.28や白色テロの責任を公的に問われた者、裁判にかけられた者は1人もいない。

全ての良質な政治的映画やテレビ番組には、悪玉の存在が欠かせない。韓国では過去をしっかりと清算した結果、悪玉と悪行についての集団的合意が形成された。韓国社会では、全斗煥は悪党であり、民間人を虐殺した光州事件は悪行だったという合意がおおむね成立している。

台湾では過去の清算が十分ではないため、そのような合意が存在しない。もし2.28の映画を撮るとしたら、悪党は誰なのか? 蒋介石総統か? 台湾省行政長官だった陳儀(チェン・イー)か? 兵器庫から武器を略奪した一部の本省人か?

過去の清算の意義は、タブーなき議論が可能な社会的環境と合意を形成することにある。この議論には、映画を通じた議論も含まれる。

台湾の過去の清算は韓国のような成功ではなかったかもしれない。それでも、『タクシー運転手』のような政治的大作映画が作られる望みがないわけではない。蔡英文(ツァイ・インウェン)政権は過去の清算に全力を挙げる姿勢を示し、国民党の不正取得資産の調査を始め、白色テロ期に関する詳細な報告書の作成を約束した。

蔡政権の取り組みが真の責任追及と、「悪玉」と「悪行」の特定につながるかどうかはまだ分からない。だが、それによって台湾の政治的映画の基盤が構築できれば、台湾版『タクシー運転手』が生まれるのも、そう遠くないかもしれない。


ニューズウィーク日本版のおすすめ記事をLINEでチェック!

linecampaign.png

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを
ウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

From thediplomat.com

[2018年1月 9日号掲載]

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

日本との関税協議「率直かつ建設的」、米財務省が声明

ワールド

アングル:留学生に広がる不安、ビザ取り消しに直面す

ワールド

トランプ政権、予算教書を公表 国防以外で1630億

ビジネス

NY外為市場=ドル下落、堅調な雇用統計受け下げ幅縮
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 2
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 3
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単に作れる...カギを握る「2時間」の使い方
  • 4
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 5
    古代の遺跡で「動物と一緒に埋葬」された人骨を発見.…
  • 6
    目を「飛ばす特技」でギネス世界記録に...ウルグアイ…
  • 7
    宇宙からしか見えない日食、NASAの観測衛星が撮影に…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 10
    なぜ運動で寿命が延びるのか?...ホルミシスと「タン…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 10
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中