最新記事

対テロ作戦

空爆回数が激増、トランプの容赦なき対テロ戦争

2017年12月20日(水)20時00分
ジャック・ムーア

イエメンの首都サヌア、米軍のドローン攻撃を非難する落書き Khaled Abdullah-REUTERS

<空爆条件の緩和や現地司令官の裁量拡大などで民間人の犠牲が増えれば、かえって反米感情を煽りかねない>

アフリカや中東の過激派組織に対する空爆回数が、ドナルド・トランプ米政権ではバラク・オバマ前政権時代と比べて2倍以上増加したことが、新たな報告書で明らかになった。

英非営利団体「調査報道局(BIJ)」が12月19日に発表した年次報告書によれば、トランプ政権発足後に空爆が激増したのはアフガニスタン、ソマリア、イエメンなど。標的はISIS(自称イスラム国)やアルカイダだ。

イエメンでの2017年の空爆回数は、前年同期比で3倍に増えて125回に上った。ただし2012~2016年と比較すると、テロ組織の拠点に照準を絞った限定空爆の割合が多かった。ターゲットは「アラビア半島のアルカイダ(AQAP)」だ。

ソマリアでの空爆回数は、前年の14回から31回に増えた。ソマリア南部ではアルカイダ系のイスラム過激派アルシャバブが広大な土地を支配し、北部ではISISに忠誠を誓う勢力が拡大している。

オバマ前政権で米国家安全保障会議(NSC)の対テロ部門シニアディレクターを務めたルーク・ハーティグは、ソマリアでの空爆増加に関して、トランプ政権が正当な理由を一切示してこなかったのは問題だと語った。

「(空爆増加の)理由を検証しようにも、データがない。例えば、それらの空爆のうち、アメリカの単独行動ではなく、地上のソマリア軍やアフリカ連合(AU)軍との連携で実施したものはどれなのか」

ソマリアは1993年、首都モガディシオで米軍のヘリコプター、ブラックホーク2機が撃墜され、18人の米兵が死亡した米軍大失態の地。トランプはその因縁の地に、93年以来最大規模の米兵を駐留させている。

「敵対行動地域」とは

パキスタンでは空爆に加え、ドローン攻撃の回数も増加した。パキスタンとアフガニスタンとの国境地帯はかつて、アルカイダとアフガニスタンの反政府武装勢力タリバンの安全な避難所だった。

アフガニスタンではソマリアと同様、トランプが現場の米軍司令官の裁量を大幅に拡大した。タリバンのアヘン製造施設を狙った空爆も、現場の判断で行われた。タリバンはアヘン取引で年間2億ドル以上の資金を調達していると、米国防総省はみている。

トランプ政権はこれらの国を新たに「敵対行動地域(areas of "active hostilities")」に指定し、空爆回数の大幅な増加を正当化してきた。イエメンやパキスタンで空爆を実施する場合、オバマ前政権時代は厳格な承認手続きが必要だったが、それも必要なくなった。

空爆増加で市民の犠牲者が増えれば、それこそアルカイダやISISなど過激派組織の思う壺だと、人権団体は警告していた。市民の間で反米感情がいっそう高まり、ジハーディスト(聖戦士)による過激派組織への戦闘員勧誘を助長する恐れがあるからだ。

「イエメンのAQAPはかつてなく勢いを増した」と、非政府組織「国際危機グループ」は今年2月に発表した報告書に書いた。「トランプ政権発足後初となる今年1月のイエメンでの軍事作戦は(多数の民間人を巻き添えにし)、精密で効果的な対テロ掃討作戦への期待を早々に裏切るものだった」

(翻訳:河原里香)

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを
ウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

スイス中銀、第1四半期の利益が過去最高 フラン安や

ビジネス

仏エルメス、第1四半期は17%増収 中国好調

ワールド

ロシア凍結資産の利息でウクライナ支援、米提案をG7

ビジネス

北京モーターショー開幕、NEV一色 国内設計のAD
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 3

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    マイナス金利の解除でも、円安が止まらない「当然」…

  • 6

    ワニが16歳少年を襲い殺害...遺体発見の「おぞましい…

  • 7

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 10

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 5

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中