最新記事

独裁者

北朝鮮の金正恩 「狂気」の裏に潜む独裁者の帝王学

2017年12月7日(木)11時45分

ただし、経済的自由が自身の追い落としにつながらないよう、同氏は細心の注意を払っていた。

2011年の正日氏の葬儀に付き添っていた幹部のなかには、改革を率いていた張成沢(チャン・ソンテク)氏もいた。張氏は正日氏の妹と結婚し、中国との窓口となり、数ある新経済特区を監督していた。

張氏は2013年12月、カメラの前で党中央委員会政治局から外され、クーデターを企てたとして糾弾された。「そのような愚かな夢を夢見ていた」と国営メディアは伝え、改革派としての自身の計画が諸外国によって認められることを期待していた、と付け加えた。

NISによると、張氏は高射砲によって「何十回」も撃たれ、同氏の遺体は火炎放射器で始末されたというが、確認することはできない。

開発独裁者

この時期から、正恩氏は個人崇拝を強化している。張氏の粛清が発表された日、党機関紙「労働新聞」は、正恩氏にささげる歌「われわれはあなたしか知らない」を掲載した。

またINSSによれば、正恩氏は翌年、自身の偶像化に重点を置き、核兵器やミサイルの画像を含むよう学校の教科書を改訂することを指示した。

偶像化キャンペーンは2016年に本格化し、ポップカルチャーや若者に向けて発信された。正恩氏が選んだ女性歌手で構成されるモランボン楽団が演奏や芝居を通して指導者への忠誠を求める一方、主要な建設事業を担う「青年突撃隊」が約1200点もの詩などの文芸作品を生み出したという。

「彼(正恩氏)は自身の正当性を経済状況の改善と結びつけている」と、延世大学のジョン・デルーリー氏は指摘。「金正恩氏は『開発独裁者』になりたいと考えている」

国内では、豊かさをもたらす者というイメージを打ち出している。2015年に撮影された正恩氏の写真のほぼ半数が経済イベントだったことが、韓国統一省のデータは示している。しかし今年は、相次ぐミサイル実験などにより、軍事的な場面での露出が再び目立っている。

「金正恩氏は、権力基盤と独裁政権を非常に巧みに強化しながら、既存のシステムをうまく利用している」と、INSSのLee Su-seok研究員は語った。

(翻訳:伊藤典子 編集:下郡美紀)

Hyonhee Shin and James Pearson

[ソウル 30日 ロイター


120x28 Reuters.gif

Copyright (C) 2017トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを
ウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

キンバリークラーク、「タイレノール」メーカーを40

ビジネス

米テスラの欧州販売台数、10月に急減 北欧・スペイ

ビジネス

米国のインフレ高止まり、追加利下げ急がず=シカゴ連

ビジネス

10月米ISM製造業景気指数、8カ月連続50割れ 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    米沿岸に頻出する「海中UFO」──物理法則で説明がつかない現象を軍も警戒
  • 3
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った「意外な姿」に大きな注目、なぜこんな格好を?
  • 4
    「あなたが着ている制服を...」 乗客が客室乗務員に…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 8
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 9
    「白人に見えない」と言われ続けた白人女性...外見と…
  • 10
    【HTV-X】7つのキーワードで知る、日本製新型宇宙ス…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 10
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中