フィリピン麻薬戦争 防犯カメラが伝える捜査という名の残虐行為
ロイターは4台の防犯カメラすべてから映像を入手。それぞれが違う角度から現場を捉えているおり、警察による作戦の一部始終を示す、かけがえのない記録となった。今回の事件映像はすでにフィリピンの放送局GMAによって一部が放映されている。
今回の取り締まりを遂行した警察署のサンチアゴ・パスキュアル署長は、「作戦は適法なものだ」とロイターに回答。内部調査では署員が適切な執行手続に従っていたことが分かっており、丸腰の男性に対して警官が銃撃したいう目撃者の証言は「不正確で根拠がない」と断じた。
高まる不安
今回の事件発生の前日となる10月10日には、ドゥテルテ大統領が、麻薬撲滅作戦は、国家組織であるフィリピン麻薬取締庁に任せるよう警察に指示していた。
同大統領が警官に対して麻薬戦争の遂行をやめるよう公式に伝えたのはこれで2度目だ。1月後半には、警官が韓国人ビジネスマンを拉致、殺害したと報じられたことで、警察による作戦中止を発表。だが1カ月後には、麻薬が再び出回り始めたとして、それを撤回している。
「正確な説明責任に注意を向けることで、この麻薬取り締まり作戦・キャンペーンに秩序をもたらしたい」とドゥテルテ大統領は直近の通達で述べている。
警察による残虐行為に対する世論の批判が高まるなか、今回の発表は行われた。マニラの世論調査会社ソーシャル・ウェザーステーションズによる調査では、警察への不信や、その残酷な手法に対する不安が高まっていることを示している。フィリピン社会に強い影響力を持つカトリック教会も、こうした警察手法を批判している。
警官や自警団による殺害を撮影した防犯カメラ映像がオンラインで出回たことを受けて、大統領の血なまぐさい麻薬戦争に対する国民の不安は高まっている。8月には、17歳の男子学生キアン・ロイド・デロス・サントスさんの殺害映像が公開され、目撃者の証言を裏付けたことで暴動が発生した。
警察はこの時、サントスさんが発砲してきたため、正当防衛で撃ったと説明していたが、目撃者は、丸腰の少年をマニラ北部のゴミだらけの路地に連れ込んだ警官が、少年の頭部を撃ったと主張していた。
公開された映像には、少年の遺体が発見された場所に、警官2人が誰かを引き立てていく場面が映っていた。少年の葬列は、麻薬撲滅戦争に対する過去最大の抗議行動へと発展した。
今回19区の映像に映っていた警官は、報告書によれば、マニラ第2警察署の麻薬対策部門所属だという。映像にハッキリと映っている15人の警察官のうち、マスクを着用しているのは1人だけだ。
同報告書によれば、ロランド・カンポさん(60)から麻薬を買った覆面捜査官が、応援を求める合図を出したところ、カンポさんが「(警官の)気配を察し」、仲間のシャーウィン・バイタスさん(34)とロニー・セルビトさん(18)に銃を抜いて撃つよう命じた、とある。
警察は反撃し、3人が「致命傷を受けた」というのがその内容だ。
だが映像を見ると、カンポさんは警察が到着する数分前に近所の人々と談笑しており、報告書にあるように覆面捜査官に麻薬を売っている様子はない。