最新記事

米軍事

米核戦略にICBMは必要? 過去の失敗事例から専門家は疑問の声

2017年12月5日(火)18時13分


「時代遅れの」軍備

ICBM戦力の撤廃を主張する論客の1人が、クリントン政権時代に国防長官を務めたウィリアム・ペリー氏だ。最近のインタビューのなかで同氏は、米国がICBMを撤廃すべき理由として、「あまりに簡単に、誤った警報に対応する」点を挙げている。誤った判断は破滅をもたらすだろう、と彼は警告する。「誰であろうと、7─8分内にそのような決断を迫られるべきではない」

オバマ前政権下で国防長官を務めたレオン・パネッタ氏は、在任中は「3本柱」を擁護していたが、最近のインタビューでは、考えを改めたと語っている。

「3本柱の要素のうち、現段階で『ミニットマン』ミサイルが、恐らく最も時代遅れだという点は、疑問の余地がない」と同氏は語る。

ロシアではさらに誤発射のリスクも高いと、複数の軍縮専門家は指摘。米国の場合、警報を受けた時点から、その脅威を把握してICBM発射に至るまでに、約30分間の余裕がある。だがロシアでは現在それほどの余裕はなく、一部の試算では、わずか15分程度だという。

なぜなら、ロシアは冷戦後、早期警戒衛星を更新しておらず、2014年にはすっかり老朽化してしまった。ロシア政府が早期警戒衛星の更新に着手したのは、ようやく最近になってからだ。

ロシアが頼りにするのはもっぱら地上配備型レーダーであり、ミサイルを探知できるのは、それが水平線上に現れてからだ。

対照的に、米国は完全に機能する早期警戒衛星を揃えており、ロシアがミサイル発射した瞬間にそれを検知することができる。

ICBM戦力を巡る疑問は、世界がここ数年で最も深刻な核問題に直面するなかで、浮上している。北朝鮮の核開発プログラムの進展を巡り、同国指導者の金正恩氏とトランプ米大統領は非難の応酬を続けており、その一方で米ロの核を巡る対立も高まっている。

また、兵器をより精密かつ強力にするために米国が推進する大規模で複数年にわたる「核兵器近代化プログラム」の存在も、その疑問の背景にある。戦略研究者からは、米ロが進める近代化の取り組みが、危険な不安定化を招いているという批判の声も聞こえてくる。

ICBM戦力の一触即発性を懸念する懐疑派は、その理由として、トランプ大統領の衝動的な性格を挙げている。

ペリー元国務長官は、ICBM発射という非常に重大な結果を招く決断を下すためには、性格的に冷静で合理性を重んじる大統領が必要だと述べている。「その人物に経験や経歴、知識や落ち着きが欠けているとすれば、特に心配だ」

米上院外交委員会は今月公聴会を開催し、先制核攻撃を行う権限が大統領にあるかについて議論した。マサチューセッツ州選出のエド・マーキー上院議員(民主党)は大統領権限の抑制を要求したが、数十年にわたる慣習を破るその提案は、広汎な支持を得られなかった。

「トランプ大統領は、ツイッターと同じくらい気軽に核ミサイルの発射コードを扱う可能性がある」とマーキー議員は言う。「大統領を軍幹部が思いとどまらせるなどと、当てにすべきではない」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米ロ外相が「建設的な」協議、首脳会談の準備巡り=ロ

ワールド

米、ガザ停戦維持に外交強化 バンス副大統領21日に

ビジネス

メルク、米国内事業に700億ドル超投資 製造・研究

ワールド

コロンビア、駐米大使呼び協議へ トランプ氏の関税引
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 7
    【インタビュー】参政党・神谷代表が「必ず起こる」…
  • 8
    ニッポン停滞の証か...トヨタの賭ける「未来」が関心…
  • 9
    TWICEがデビュー10周年 新作で再認識する揺るぎない…
  • 10
    トランプがまた手のひら返し...ゼレンスキーに領土割…
  • 1
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 2
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 3
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ海で「中国J-16」 vs 「ステルス機」
  • 4
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 7
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口…
  • 8
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 9
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 10
    「心の知能指数(EQ)」とは何か...「EQが高い人」に…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中