最新記事

中東

中東を制するのはサウジではなくイラン

2017年11月22日(水)20時00分
ジョナサン・スパイヤー

イラクでは、イランのイスラム革命防衛隊(IRGC)が、12万人を擁する民兵組織、人民動員部隊(PMU)を発足させた。PMUに参加する民兵全員がイラン寄りというわけではないが、主力のシーア派3大勢力(カタイブ・ヒズボラ、バドル軍団、アサイブ・アフル・ハック)はIRGCの直接の指揮下にある。

イランは、イラク政権内でも政治的な影響力を行使している。政権党のイスラーム・ダアワ党は、以前から親イランの立場をとっている。国内の治安維持を担当する内務省は、バドル軍団の支配下にある。正規軍と民兵組織の境界は曖昧で、かつての民兵が政府軍の顔をして米軍の訓練や装備提供を受けることもある。

サウジアラビアはイラクでの遅れを取り戻そうと躍起だ。イラクのハイダル・アバディ首相は10月末、同国の首相としては25年ぶりにリヤドを訪問し、サウジ=イラク調整協議会を立ち上げた。それでもサウジ側に、イラク政権を自陣営に引き入れるために資金援助以上の策があるのか否かは不明確だ。

ペシュメルガを退かせたイランの手腕

内戦中のイエメンでは自ら直接の軍事介入を試みたが、結果は微妙だ。2015年のサウジの軍事介入の結果、イランが支援するシーア派武装組織フーシ派とその仲間は、イエメン全土を制圧するのに失敗し、戦略上の要衝であるバブ・エル・マンデブ海峡にも手を出せずにきた。だが戦況は泥沼化し、サウジアラビアは出口が見えないまま莫大な戦費を費やしている。イランの傷ははるかに軽い。

イランとサウジアラビアの成績をまとめると、こうだ。これまでのところ、イランはレバノンを事実上掌中にし、シリアとイラクでは勝ちつつあり、イエメンではサウジアラビアに多大な犠牲を支払わせている。

どの国の場合でも、イランは有効な「代理人」を立てて政治的軍事的な影響力を行使してきた。イラン政府は敵の中にほころびを見つけて利用するのもうまい。たとえば、イラクのクルド自治政府が住民投票で独立しようとした9月。イラクと国境を接し、国内にクルド人少数派を抱えるイランは、素早い動きで投票を強行した自治政府を罰した。イランは、クルド自治政府のマスード・バルザニ議長とライバル関係にあったイラクのクルド人政治家、故ジャラル・タラバニ前大統領一族とのコネを利用した。タラバニ家は長年の付き合いがあるイランのために、クルド人がイラク政府と管轄権を争っていた油田地帯キルクークからクルド人治安部隊ペシュメルガを退却させたのだ。キルクークがなければクルド人の経済的独立はままならない。バルザニは責任を取って辞任した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

利上げの可能性、物価上昇継続なら「非常に高い」=日

ワールド

アングル:ホームレス化の危機にAIが救いの手、米自

ワールド

アングル:印総選挙、LGBTQ活動家は失望 同性婚

ワールド

北朝鮮、黄海でミサイル発射実験=KCNA
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ公式」とは?...順番に当てはめるだけで論理的な文章に

  • 3

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 4

    「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32…

  • 5

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 6

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 7

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離…

  • 8

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 9

    毎日どこで何してる? 首輪のカメラが記録した猫目…

  • 10

    ネット時代の子供の間で広がっている「ポップコーン…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 5

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 9

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 10

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中