最新記事

中国外交

日中首脳会談、習近平はなぜ笑顔だったのか

2017年11月14日(火)14時00分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

なぜなら中国外交部のホームページに掲載されているように、2017年10月31日、中国と韓国は「中韓関係に関する意思疎通」という中韓合意文書を締結しているからである。この合意の中における肝心な要素は、「中国は日米韓軍事協力などと関連し、中国政府の立場と懸念を明らかにした」という文言で、これは「日米韓における安全保障協力は決して軍事同盟にはつながらない」ということを意味する。事実、この精神に基づき韓国外相は国会で「韓米日安保協力が三者軍事同盟に発展することはない」と答弁している。

ベトナムのダナンでも11日、中韓首脳会談が行われ、改めて「日米韓の安全保障協力関係を、絶対に軍事同盟に持っていかなこと」が約束された。そのことを要求する習主席に、文大統領は「どんなことがあっても守ります」と、まるでへつらうような満面の笑顔で応えていた。その仲の良さを裏付けるように来月の訪中の約束を取り付けている。

すなわち、「反日」は、このような北東アジア情勢の形成に大きな影響を与える形で進んでいるのである。

習近平政権は、絶対に反日デモを許さない。

なぜなら反日デモは必ず反政府デモにつながることを知っているからだ。それくらい、人民の不満は大きく、政府は人民を信用していないのである。

だからこそ、なおさら、一刻も早く「中国の夢」を叶えなければならないし、「中華民族の偉大なる復興」を成し遂げなければならない。

日本は中国の覇権に、また手を貸すのか

1989年6月4日に、民主化を求める若者たちの口を銃口で塞いでしまった天安門事件が起きた。そのあまりの残酷さに、西側諸国は中国に対する経済封鎖を断行した。 

それをいの一番に破ったのは日本である。

1992年には、江沢民の要求に応じて、天皇陛下の訪中をさえ決行している。中国の計算通り、それを見た他の西側諸国は経済封鎖を解き始め、特に日米が中心となって中国への投資を加速させ、こんにちの中国の繁栄をもたらしたのである。

江沢民はあのとき、天皇陛下の訪中さえあれば中国は二度と歴史問題を口にしないと言いながら、実際はその逆だ。経済成長した中国は、その分だけ日本に対して歴史問題を厳しく突き付けるようになった。

もしあのとき、日本が中国に手を差し伸べていなければ、中国はあるいは民主化への道を歩むチャンスを得たかもしれない。しかし日本が手を差し伸べて以降、急速な経済発展を遂げた中国は、日本に歴史の反省をしろと要求するだけでなく、国内における言論弾圧を著しく強化するようにもなっている。

「習近平の笑顔」を喜ぶということは、日本は中国の世界制覇に、またもや手を貸そうとしているに等しい。中国の言論弾圧に手を貸し、中国の民主化のために努力し苦しんでいる少なからぬ人民への弾圧にも協力しているに等しいのである。

この構図が分からないのだろうか。このような言論弾圧をする国が世界を制覇することにより何が起き始めるかを、日本には考えてほしい。真の自由と民主に対する日本の責任は大きいのだ。贖罪意識の使い方を間違えてはいないのか。


endo-progile.jpg[執筆者]遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『習近平vs.トランプ 世界を制するのは誰か』(飛鳥新社)『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版も)『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

この筆者の記事一覧はこちら≫

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国国防相、「弱肉強食」による分断回避へ世界的な結

ビジネス

前場の日経平均は反発、最高値を更新 FOMC無難通

ワールド

ガザ情勢は「容認できず」、ローマ教皇が改めて停戦訴

ワールド

ナワリヌイ氏死因は「毒殺と判明」と妻、検体を海外機
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 2
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 3
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 4
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 7
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 8
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 9
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 10
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「なんて無駄」「空飛ぶ宮殿...」パリス・ヒルトン、…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中