最新記事

高齢化

ベトナムを襲う急速高齢化の危機

2017年11月8日(水)17時50分
デービッド・ハット

社会保障制度に多くの問題を抱えたままベトナムは高齢社会へと突き進んでいる Tim Clayton-Corbis/GETTY IMAGES

<順調に経済成長する若い国というイメージが強いベトナムだが、急加速する高齢化に共産党政権は手を打てずにいる>

国の未来は人口構成で決まる――そう見抜いたのは近代社会学の祖オーギュスト・コント。国富の源泉は国民の働きだが、未来の働き手の数は(戦争で領土を増やさない限り)今日の人口構成で決まる。

いまベトナム政府の高官は、この冷徹な予言が間違いであってほしいと願っていることだろう。現在の人口動態を見る限り、ベトナムの未来が明るいとは思えないからだ。

長期にわたる戦争とその後の混乱期を抜け出した今のベトナムは「若い国」、つまり若者が多い国と思われがちだ。だから外資はこの国の未来を信じて、積極的に投資している。

しかし人口学的な現実は異なる。確かに総人口(約9500万)の57%は34歳未満で、平均年齢は32歳。生産年齢人口(15〜64歳)の68%は32歳未満だ。この割合は20世紀末よりも増えていて、東南アジアの大半の国よりも大きい。

ところが15歳未満の人口は数十年前から右肩下がりだ。89年には人口全体のほぼ40%だったが、今や23%。しかも合計特殊出生率(女性1人が一生の間に生む子の平均数)は政府の「2人っ子政策」のせいで1.95前後で推移している(ちなみに80年には5.0、90年でも3.55だった)。

つまり、ベトナムの労働人口は今後ずっと減り続け、IMFのブログで指摘されたように「2020〜50年にかけて国民1人当たりGDPの成長の妨げになる」ということだ。

数年前にベトナムの生産年齢人口がピークに達した頃、この国の1人当たり国民所得はまだ中国の半分、タイの3分の1にすぎず、賃金水準は日本の10分の1だった。IMFの表現を借りるなら、ベトナムは「豊かになる前に老いさらばえるリスク」を抱えている。

もう親の面倒は見ない

WHO(世界保健機関)はベトナムを、高齢化の著しい国の1つとしている。既に60歳以上が約1000万人で全体の11%を占める。また世界銀行の報告によると、15 年には65歳以上の高齢者が人口の7%を占め、「高齢化社会」の仲間入りをした。さらに65歳以上が14%を超える「高齢社会」には2030〜35年頃に、21%を超える「超高齢化社会」には50年頃に突入するものとみられている。

この高齢化スピードは、欧米や日本を含む先進国に比べて、はるかに速い。おまけにベトナムは平均寿命が75歳という東南アジア屈指の長寿国だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、選挙での共和党不振「政府閉鎖が一因」

ワールド

プーチン氏、核実験再開の提案起草を指示 トランプ氏

ビジネス

米ADP民間雇用、10月は4.2万人増 大幅に回復

ワールド

UPS貨物機墜落事故、死者9人に 空港は一部除き再
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    カナダ、インドからの留学申請74%を却下...大幅上昇の理由とは?
  • 4
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 5
    もはや大卒に何の意味が? 借金して大学を出ても「商…
  • 6
    NY市長に「社会主義」候補当選、マムダニ・ショック…
  • 7
    若いホホジロザメを捕食する「シャークハンター」シ…
  • 8
    「白人に見えない」と言われ続けた白人女性...外見と…
  • 9
    「なんだコイツ!」網戸の工事中に「まさかの巨大生…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 9
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 10
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中