最新記事

トランプ訪中

トランプ訪中、主人公はアラベラちゃん

2017年11月10日(金)16時00分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

この額は、習近平が清華大学経営管理学院顧問委員会の米側メンバーと歓談した時点で、既に決まっていたものと思う。マクマスター大統領補佐官が「米中はウィン-ウィン関係だ」と断言したのは、こうした米財界の動きを踏まえたものと解釈していいだろう。

北朝鮮問題に関しては?

世界が注目する北朝鮮問題に関しては、表面上は米中間には温度差がある。トランプは控え目ながら中国にさらなる圧力を求める旨の発言をしたが、習近平は、「対話と交渉が必要だ」とさらりと言ってのけた。公開されているのは、そういう一面ではあるが、水面下では綿密な戦略を米中は共有しているものと思う。それは習近平とトランプの距離の近さに現れている。

世界の二大巨頭として

習近平は首脳会談で「太平洋は広い。米中両国を収めるには十分な広さだ」と言い、米中が「世界の2大経済体」であることを強調した。CCTVではこの「太平洋」が「世界」という言葉に代わり、「新時代・新外交」という言葉を用いて、中国がアメリカと確実に肩を並べたことを、くり返し報道している。故宮を貸し切ったことは、「二大巨頭」そして「世界の二大皇帝」という思いを象徴していると言っても過言ではないだろう。

日本が気を付けるべきは「人材育成」

清華大学経営管理学院顧問委員会の最も大きな目的は、米中間の経済貿易に貢献する「人財育成」である。投資などが目的ではない。

これは実は時間が経てばたつほど大きな効果を発揮することになる。

清華大学は清王朝の西太后時代にアメリカの資本によって「清華学堂」として設立されたものだ。この「清華」の「清」は「清王朝」の「清」である。「華」は言うまでもなく「中華」の「華」。中国の青年をアメリカに留学させ、アメリカのために有用な人材を育てることを初期の目的としていた。

顧問委員会メンバーの一人で、習近平の親友であるブラック・ストーンCEOのシュテファン・シュワルツマンは蘇世民という中国名を持っていて、蘇世民書院という人材育成センターを、習近平政権になってから清華大学の中に設立した。ここでは設立当時の目的と同じく、アメリカのための活躍できる中国の人材を、アメリカ大企業の関係者が育成して、米中関係を強化し高めていくことが目的だ。

キッシンジャー・アソシエイツは、シュワルツマンが経営するブラック・ストーンのビルの中にある。そしてシュワルツマンはトランプ大統領戦略政策フォーラムの議長だった。

キッシンジャーは極端な親中であるとともに、反日であることでも有名だ。

28兆円の投資協定の裏には、清王朝から続いている、(アメリカのための)清華大学の米大財閥たちとの、恐るべきベースがあることを見逃してはならない。

トランプのアジア歴訪は、ビジネスマン・トランプの一面を発揮したが、表面には出ていない米中の結びつきを、見たくはないだろうが、正視するしかないだろう。


endo-progile.jpg[執筆者]遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『習近平vs.トランプ 世界を制するのは誰か』(飛鳥新社)『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版も)『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

この筆者の記事一覧はこちら≫

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米ウクライナ首脳、日本時間29日未明に会談 和平巡

ワールド

訂正-カナダ首相、対ウクライナ25億加ドル追加支援

ワールド

ナイジェリア空爆、クリスマスの実行指示とトランプ氏

ビジネス

中国工業部門利益、1年ぶり大幅減 11月13.1%
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌…
  • 5
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 6
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それ…
  • 7
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 10
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 10
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中