最新記事

テクノロジー

奇跡の素材で割れないスマホが現実に

2017年11月29日(水)18時00分
アンソニー・カスバートソン

サセックス大学の研究者が開発した新素材は、薄くて丈夫なだけでなく曲げられるのも大きな特徴 University of Sussex

<原子1個分の厚さで鋼の200倍頑丈。銅より導電性が高く、ゴム並みに柔軟な新素材「グラフェン」に期待が集まる>

バキバキに割れたスマホの画面は、近いうちに過去のものになるかもしれない。研究者の間で「奇跡の素材」と呼ばれるグラフェンを用いて、安価で恐ろしく頑丈なタッチスクリーン用の透明電極フィルムが開発されたからだ。

グラフェンは炭素原子が蜂の巣状に共有結合した極めて薄いシート状の新素材。厚さは原子1個分しかなく、強度は鋼の200倍。銅よりも導電性が高く、ゴムのような柔軟性を持つ。

英サセックス大学の物理学者は、銀ナノワイヤという別の新素材とグラフェンを組み合わせることで、割れやすいスマホ画面の解決策を編み出した。米化学会の機関誌ラングミュールに発表された論文によれば、この混合素材は既存のものより安価で頑丈なだけでなく、より環境に優しく反応感度も高い。

現在のスマホ画面に使われる電極フィルムには、値段が高く採掘の際に環境を破壊するレアメタルのインジウムが使われている。インジウムは壊れやすいため、タッチスクリーンにひびが入ったり粉々に割れたりしやすい。

これに対して「グラフェンは比較的豊富にある天然のグラファイト(黒鉛)を分離して作られるので、タッチセンサーの製造コストは大幅に下がる」と、プロジェクトの研究者マシュー・ラージは言う。

グラフェンを素材にした導電シートはスマホ画面だけでなく、折り畳んだり丸めたりできる新世代の電子機器の開発にも貢献しそうだ。業界首位のサムスンをはじめとする大手スマホメーカーは、スクリーン技術に革命を起こすグラフェンの可能性に大注目。サムスン高度先端技術研究所では現在、グラフェンの商用化に取り組んでいる。

各社がグラフェンに関心を寄せる理由は、そのユニークな特性にある。04年に英マンチェスター大学の研究所で初めて作られたグラフェンは、想定される用途が極めて幅広い。

割れないスマホ画面や次世代の電子機器のほかにも、蚕にグラフェンを食べさせてできるという強化シルク、屋内太陽電池や塩水ろ過器、糖尿病の検査や治療に使える「タトゥー型」バイオセンサーなど、応用範囲は実に多様だ。

「グラフェンを幅広い一般向けの用途に活用する方法については、長年研究が行われてきた」と、英サリー大学でグラフェン研究を行っているラビ・シルバ教授は昨年本誌に語った(今回の研究には関わっていない)。「いよいよ、そうした応用が実現段階に入りつつある」

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!

気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを

ウイークデーの朝にお届けします。

ご登録(無料)はこちらから=>>

[2017年11月28日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

エルサルバドルへの誤送還問題、トランプ氏「協議して

ワールド

米民間セクター代表団、グリーンランドを今週訪問 投

ビジネス

伊プラダ第1四半期売上高は予想超え、ミュウミュウ部

ワールド

ロシア、貿易戦争想定の経済予測を初公表 25年成長
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 2
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    中居正広事件は「ポジティブ」な空気が生んだ...誰も…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 7
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 10
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中