最新記事

テクノロジー

研究開発を加速する中国、足を引っ張るトランプ

2017年10月28日(土)14時40分
グレン・カール(元CIA諜報員)

中国の自動車メーカー「比亜迪汽車(BYDオート)」のハイブリッド車 Kim Kyung Hoon-REUTERS

<自動車や再生エネルギーの分野のイノベーションで、今後アメリカは中国に大きく後れを取りかねない>

中国共産党大会と言えば、堅苦しくて退屈という印象が強い。しかし、今回の党大会は、(民主主義と人権の面では大きな問題を抱えているが)力強く成長する中国を印象付けた。その姿は、政治が機能していないように見えるアメリカとは対照的だ。

最近の両国のエネルギー、自動車、研究開発に関する政策を比べると、中国が未来の世界を形作ろうとしているのに対し、アメリカは過去に退行しつつあるように見える。トランプ政権の政策がアメリカの相対的な衰退を加速させかねないのだ。

中国は、16~20年に合計1兆2000億ドルを基礎的な研究開発につぎ込むことを決めている。このうち3730億ドルが再生可能エネルギー関連だ。研究開発予算は、20年までにアメリカを追い越すと予測されている。

習近平(シー・チンピン)国家主席は、大量の石炭を消費する経済から脱却し、太陽光エネルギーへの転換を図る方針を強く打ち出している。太陽光発電技術で世界の先頭を走っており、最近はバイオ燃料にも力を入れ始めた。

中国は既に世界最大の自動車市場で、昨年販売された電気自動車とハイブリッド車の台数はほかの国全ての合計より多い。中国政府は9月、将来的にガソリン車を禁止する方針も明らかにしている。

保護主義というゾンビ

一方、アメリカ政府は正反対の方向に進んでいる。トランプ大統領は、自動車の燃費基準を緩和しようとしており、再生可能エネルギー開発への支援も大幅に削減した。アメリカの研究開発予算はこの半世紀にわたり減り続けてきたが、トランプはそれをさらに17%削減する意向を表明している。

中国共産党大会の演説で習が中国の台頭を宣言するのを聞いて思い出したことがある。私は数年前、「世界におけるアメリカの経済的・軍事的リーダーシップを守る」ためのプログラムに関わったことがあった。

アメリカ政府が私に見解を尋ねてきた。先方が知りたがったのは、以下の点だ。アメリカの経済的・軍事的な「君臨」を永続させるために不可欠な――言い換えれば、外国との競争から守るべき――技術やプロセスや製品はどれか。アメリカの大学が科学と工学の分野で中国人などの外国人留学生を大勢受け入れていることは、アメリカの国益を損なっていないか。

このたぐいの発想はなかなか滅びない。歴史上、保護主義が機能しないことは実証済みのはずだが、ライバルの猛追を受けたり、追い抜かれたりすると、保護主義に走りたいという衝動がゾンビのようによみがえってくる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日経平均は反発で寄り付く、米株高を好感 ファストリ

ワールド

訂正ブラジル大統領、米50%関税に報復示唆 緊張緩

ワールド

英首相がトランプ氏と会談へ、月内のスコットランド訪

ワールド

米国務省、人員削減計画を近く開始 影響受ける職員に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 2
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、「強いドルは終わった」
  • 3
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 4
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 5
    名古屋が中国からのフェンタニル密輸の中継拠点に?…
  • 6
    アメリカを「好きな国・嫌いな国」ランキング...日本…
  • 7
    アメリカの保守派はどうして温暖化理論を信じないの…
  • 8
    犯罪者に狙われる家の「共通点」とは? 広域強盗事…
  • 9
    【クイズ】日本から密輸?...鎮痛剤「フェンタニル」…
  • 10
    ハメネイの側近がトランプ「暗殺」の脅迫?「別荘で…
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 4
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 5
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 6
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 7
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 10
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中