最新記事

ドイツ

ドイツはロシアから東欧を守れ

2017年10月6日(金)18時16分
ピーター・クレコ(ハンガリーに拠点を置く政治資本研究所ディレクター)

G20サミットで会談するロシアのプーチン大統領(左)とドイツのメルケル首相(2017年7月7日)Philippe Wojazer- REUTERS

<東欧でドイツとロシアの人気が逆転している。メルケル独首相は新政権でこの流れを止め、ロシアから東欧を守らなければならない>

ドイツのアンゲラ・メルケル首相が連邦議会選挙(下院選)で勝利し、連立交渉を進めるにあたり、2つの重要な疑問がある。1)ドイツの新たな連立政権は、過去2~3年で悪化したドイツとロシアの関係にどのような影響を及ぼすのか。2)伝統的なドイツの勢力圏でEU加盟国でもある東欧諸国に対する影響力にどう影響するのか。

はっきりとは見通せないが、ある程度予測は可能だ。

政治経済でロシアと協調するドイツの伝統的な「東方政策」は、いまもドイツ政界や経済界の主流を占める。ロシアがウクライナのクリミア半島を一方的に併合し、ドイツの安全保障が損なわれた時でさえ、ドイツは東方政策をやめなかった。

今後の連立シナリオとして最も可能性が高いのは、メルケル率いる与党・キリスト教民主・社会同盟(CDU・CDS)と、自由民主党(FDP)、緑の党とが大連立を組む、「ジャマイカ連立」だ(各党のイメージカラーが黒、黄、緑でジャマイカ国旗と同じ)。

下院選で惨敗した社会民主党(SPD)は、連立から離脱する。SPDは対ロ制裁の緩和やロシア企業との取引正常化を訴えていたので、ロシアはドイツの政権中枢にいた強力な味方を失うことになる。

メルケルよりプーチンに親近感

企業寄りのFDPも対ロ制裁の緩和を支持していたが、それほどそこにこだわりはなさそうだ。

緑の党はFDPと正反対で、対ロ制裁の厳格化を望んでいる。ロシアの人権侵害や領土的野心、エネルギー政策などを激しく批判しており、今後の連立交渉でも対ロ強硬姿勢を強く打ち出すだろう。

全体としてみれば、ドイツとロシアの2国間関係が大幅に変化する可能性は小さい。現状を維持することになりそうだ。

だがハンガリーの都市ヴィシェグラードの名を冠した「ヴィシェグラード諸国(ハンガリー、スロバキア、ポーランド、チェコの東欧4カ国)」とドイツの関係は連立政権に大きく左右されそうだ。ドイツはこの地域に影響力を持ち、貿易相手国としてはフランス以上に重要だ。

ドイツは明らかに、この地域で課題に直面している。スロバキアに拠点を置く非政府組織グローブセックが今年まとめた研究では、ヴィシェグラード4カ国のうち3カ国の国民が、メルケルよりロシアのウラジーミル・プーチン大統領に好感を持っていることが分かった。

スロバキアの反応はとりわけ衝撃的で、国民の41%がプーチンに好感を持つのに対し、メルケルはわずか21%。ハンガリーとスロバキアでは、プーチンの好感度がドナルド・トランプを上回った。さらに、相当数のスロバキア国民が、自国は旧東側諸国に属するか、東側と西側の中間にとどまるべきだと考えていた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

香港の大規模住宅火災、ほぼ鎮圧 依然多くの不明者

ビジネス

英財務相、増税巡る批判に反論 野党は福祉支出拡大を

ビジネス

中国の安踏体育と李寧、プーマ買収検討 合意困難か=

ビジネス

ユーロ圏10月銀行融資、企業向けは伸び横ばい 家計
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 4
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 5
    7歳の娘の「スマホの検索履歴」で見つかった「衝撃の…
  • 6
    がん患者の歯のX線画像に映った「真っ黒な空洞」...…
  • 7
    ミッキーマウスの著作権は切れている...それでも企業…
  • 8
    ウクライナ降伏にも等しい「28項目の和平案」の裏に…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    あなたは何歳?...医師が警告する「感情の老化」、簡…
  • 1
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 5
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 6
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 7
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 8
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 9
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 10
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中