最新記事

ISIS

「イスラム国」の首都ラッカ解放でISISが行く先

2017年10月18日(水)19時16分
ジャック・ムーア

シリア北部ラッカで解放を祝うシリア民主軍(SDF)の兵士たち(2017年10月17日) Erik De Castro- REUTERS

<ISISが掃討されても、潜伏した残党狩や下部組織との戦いはこれから。しかもイラクやシリアは今も過激化の温床にぴったり>

テロ組織ISIS(自称イスラム国)がシリアとイラクにまたがる「カリフ制国家」の樹立を宣言した2014年以降、首都と称されてきたシリア北部のラッカが解放された。

ニュースが流れたのは10月17日だが、当初は情報が錯綜した。

現地の監視団は、米軍の支援を受けた武装勢力がラッカを完全に制圧したと発表した。だが現地の武装勢力は、市内の病院は制圧したものの、スタジアムに立てこもったISISの残党が投降を拒んで最後の抗戦をしていると言った。それほど、敵も味方も混乱していた。

最後は米軍主導の有志連合の支援を受けるクルド人とアラブ人の混成部隊、シリア民主軍(SDF)のタラル・セロ報道官が、市内全域を制圧したと発表した。

姿の見えない残党狩りはこれから

今年6月に本格的な市街戦を始めてから4カ月、SDFはついに、ISISがシリアにおける最大拠点としてきたラッカを奪還した。問題は、これからISISはどうなるのかだ。

今後の戦闘は、残ったISISの支配地域へと移る。ISIS掃討作戦でアメリカとロシアから別々に支援を受ける地上部隊を待ち受けるのは、ISIS残党による徹底抗戦だ。

■次のターゲット

ISISの支配地域は、シリア東部デリゾール県の複数の都市とマヤディーン、イラク北西部のタルアファル、それにシリアとイラクの国境沿いにある無法地帯のみだ。

しかもデリゾールとマヤディーンは、ロシア空軍の支援を受けたシリアのバシャル・アサド政権軍が包囲している。

ラッカの陥落が近づくにつれ、ISISの残党数百人は、シリア東部のイラクとの国境に近いユーフラテス川渓谷に逃れた。米情報機関は、ISISはここに生き残りのための物資を運び込んできた、とみている。

今後戦闘はシリア東部に移り、ラッカに続いてデリゾールやマヤディーンも陥落するだろう。だがシリアの田舎町に逃れて住民に紛れようとするISIS戦闘員を拘束するための戦いは、これからだ。米軍はISIS幹部を狙った空爆を実施中で、今後も継続するだろう。すでに、ISISの最高司令官たちを捕えるか殺害するための特殊作戦部隊も派遣している。

アメリカとシリア、ロシアが誰より真っ先に拘束しようとしている人物は、ISISの最高指導者アブバクル・バグダディだ。

■封じ込め

ISISとその信奉者たちは、いったん表舞台から引っ込み、再び反攻の機会をうかがうことができる。そもそもISISがシリア内戦と米軍のイラク撤退に乗じて勢力を拡大できたのは、ISISの前身で国際テロ組織アルカイダの分派だった「ISI(イラクのイスラム国)」が地下に潜って力をためていたからだった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国全人代常務委、関税法を可決 報復関税など規定

ビジネス

物価の基調的な上昇率、見通し期間後半には目標と概ね

ワールド

エクイノール、LNG取引事業拡大へ 欧州やアジアで

ビジネス

赤沢財務副大臣「特にコメントできることない」、日銀
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 5

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 6

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 7

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 10

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 7

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 8

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中