最新記事

アメリカ社会

ヘロインなど「オピオイド系薬物中毒」 米国の地域社会に深刻な影

2017年9月26日(火)12時54分

9月19日、米国でオピオイド系鎮痛剤の乱用による死者数が増加するなか、この新たな薬物危機の最前線に立つ地域社会が、財政負担という思わぬ打撃に直面している。写真は8月、同系薬物中毒によるものとみられる遺体のCTスキャンを調べる男性。ペンシルバニアで撮影(2017年 ロイター/Adrees Latif)

米国でオピオイド系鎮痛剤の乱用による死者数が増加するなか、この新たな薬物危機の最前線に立つ地域社会が、財政負担という思わぬ打撃に直面している。

オハイオ州コロンバスから南に1時間の距離に位置する人口7万7000のロス郡は、オピオイド系鎮痛剤の乱用に関連する死亡件数が急増している。2009年の19人に比べ、昨年は44人に。薬物乱用のまん延は、人命を奪うだけでなく、郡の財政にも負担をかけている。

同郡当局者によれば、州の養護施設に収容されている児童200人のうち、両親がオピオイド中毒に陥っている割合は、5年前の約40%から約75%に上昇。こうした児童の場合、専門家によるカウンセリングや、長期収容や治療が必要になるため、養護コストがかさむという。

これが原因で、ロス郡の児童養護関連予算は130万ドル(約1億4600万円)から約240万ドルへ2倍近くに跳ね上がった、とダグ・コルコラン郡政委員は語った。

一般予算がわずか2300万ドルの同郡にとって、これは大きな財政負担だという。現在、郡政委員らは、青少年向けプログラムや経済開発スキームなど、膨れあがるオピオイド中毒対策コストを賄うために削減できる予算項目はないか検討している。

「郡予算のうち、削減できる裁量部分はきわめて少ない。非常に厳しい」とコルコラン氏は言う。

全米の市町村や郡が、2015年だけで3万3000人の犠牲者を出した薬物中毒危機による財政コスト増への対処に頭を悩ませている。地方自治体の当局者や郡予算の専門家ら20数人へのインタビューとデータからそうした状況が明らかになった。

これらは、地方自治体に与える財政影響を垣間見せてくれるが、完璧な全体像の把握には程遠い。というのも、郡や州からの情報を整理した、中枢となるべきデータベースが存在しないからだ。したがって、問題の本当の大きさは依然として捉えることが出来ない。

主に処方薬としての鎮痛剤であるヘロイン、フェンタニル(モルヒネより50─100倍強力な薬剤)を中心とするオピオイド系薬物は、米国の「薬物過剰摂取」問題に拍車をかけている。

トランプ大統領は先月、オピオイド中毒を「国家的な緊急事態」と呼んだが、まだ国家非常事態宣言は発令されていない。もしそのような動きがあれば、各州は対策のために連邦予算を利用できるようになる。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

リーブス英財務相、広範な増税示唆 緊縮財政は回避へ

ワールド

プーチン氏、レアアース採掘計画と中朝国境の物流施設

ビジネス

英BP、第3四半期の利益が予想を上回る 潤滑油部門

ビジネス

中国人民銀、公開市場で国債買い入れ再開 昨年12月
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    米沿岸に頻出する「海中UFO」──物理法則で説明がつかない現象を軍も警戒
  • 4
    「あなたが着ている制服を...」 乗客が客室乗務員に…
  • 5
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 6
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 7
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 8
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 9
    これをすれば「安定した子供」に育つ?...児童心理学…
  • 10
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 10
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中