最新記事

アジア

上海協力機構という安全保障同盟に注目すべき理由

2017年8月14日(月)11時00分
ハリー・ブロードマン(本誌コラムニスト、ジョンズ・ホプキンズ大学上級研究員)

中国の習近平国家主席とカザフスタンのナザルバエフ大統領 MUKHTAR KHOLDORBEKOV-REUTERS

<一帯一路やアジアインフラ投資銀行と違い、ニュースになることも少ない上海協力機構(SCO)。インドとパキスタン、さらにはイラン正式加盟の見通しもあるが、その急拡大は何を意味するのか>

上海協力機構(SCO)と聞いて、すぐに何のことか分かる人は少ないのではないだろうか。何かと話題になる「一帯一路」構想やアジアインフラ投資銀行(AIIB)と違って、SCOはニュースになることも少ない。だが、今後はもう少し注目したほうがよさそうだ。

SCOの歴史は意外に古く、そのルーツは90年代半ばにさかのぼる。中国、ロシア、カザフスタン、キルギス、タジキスタンの首脳が上海に集まったのは96年のこと。ソ連崩壊によって、よくも悪くも「親分」を失った中央アジア諸国のため、関係国が安全保障の枠組みを話し合うことにしたのだ。

SCOは01年、この5カ国にウズベキスタンを加えた6カ国で正式発足した。その最大の目的は、国際テロや宗教的過激主義といった「外敵」だけでなく、当時勢いづいていた各国内の分離独立運動への対応でも加盟国が協力することだった。

やがてアジアの周辺諸国も、SCOへの参加を希望するようになった。SCO加盟国から締め出された「不穏分子」が、周辺諸国に活動拠点を移すことが懸念されたためだ。

実際、分離独立主義者や過激派は、周辺諸国からSCO加盟国に向けて攻撃するだけでなく、これら周辺国の中でも破壊活動を始めた。こうしてアフガニスタン、モンゴルなどがオブザーバーとしてSCOに参加するようになった。

注目すべきは、インドとパキスタン、そしてイランも05年にオブザーバー参加を認められたことだろう。いずれも戦略地政学的に重要な位置にある上に、正常な統治を危うくしかねない国内外の脅威にさらされていた。これらの国にとってSCO参加は保険のようなものだった。

そして6月、カザフスタンの首都アスタナで開かれたSCO首脳会議で、インドとパキスタンが正式加盟国に昇格した。これによりSCOは域内人口が30億人を超え(世界人口の40%以上)、合計GDPは世界の約20%を占めるようになった。

これは地政学的に重要な転機になるかもしれない。政治的・軍事的に激しく対立してきたインドとパキスタンが、SCOという枠組みの中で手を組んだのだ。もちろんそれが2国間関係にどんな影響を与えるかは、もう少し時間がたってみないと分からないが。

【参考記事】インドのしたたかさを知らず、印中対決に期待し過ぎる欧米

中東の安全保障にも影響

インドが正式加盟したことで、SCOは安全保障だけでなく、経済、投資、貿易もカバーするようになるとの見方があるが、それは違う。そのことは一帯一路構想を見れば分かる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

AI用サーバーの米スーパー・マイクロ、四半期売上高

ビジネス

バーゼル委、銀行にカウンターパーティーリスク管理の

ビジネス

米ペイパルが通期利益見通し上方修正、ブランド化事業

ワールド

鳥インフル、渡り鳥から米国外の牛に感染も=WHO責
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 5

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 6

    衆院3補選の結果が示す日本のデモクラシーの危機

  • 7

    なぜ女性の「ボディヘア」はいまだタブーなのか?...…

  • 8

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 9

    ポーランド政府の呼び出しをロシア大使が無視、ミサ…

  • 10

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 7

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 8

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 9

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 8

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中