最新記事

米ロ関係

トランプの力を過信して米議会に負けたプーチン、次の一手

2017年8月8日(火)14時00分
マクシム・トルボビューボフ(米ケナン研究所上級研究員)

ロシアでは「システム」という用語が重要だ。通常は、政府機関や治安部隊、警察、情報機関が社会に及ぼすある種の影響力を示す。米歴史家のスティーブン・コトキンはそれを「非市民社会」と呼んだ。

健全な「非市民社会」(ロシアのエスタブリッシュメント曰く賢明なシステム)とは、選挙を実施し表面的な変化を起こしながら、政府が支配し続ける社会を指す。

ロシア政府関係者の多くは、アメリカでもこのシステムが通用すると確信している。彼らはこのシステムを自由に使いこなすことこそ、アメリカから学んだ重要な教訓だと考えていた。

「システムは必ず成功すると、アメリカ人から教わった」と、ロシアのコンスタンティン・コサチェフ上院国際問題委員長はロシア国営テレビ「ロシア・ワン」のインタビューで語った。

今、ロシア政府関係者は米議会がロソフォビア(ロシア嫌悪)に陥っていると非難する一方、トランプへの批判は控えている。だが先週アメリカが対ロシア制裁強化法を成立させたことで、米ロの関係修復は絶望的になった。ロシアの政策目標は、アメリカの行政府に影響力を及ぼし制裁を一気に解除させることだったからだ。ロシア政府がこの状況で引き下がるとは到底考えられない。

ロシアの次の手は撹乱作戦

ロシア政府はきっと、アメリカの行政府と米議会、政府機関や社会の間にさらなる不協和音を作ろうとする。すぐにロシアが大きな勝利を収めることはないかもしれないが、ロシアの政治家の政治思想の正しさを証明するという意味で、満足感に浸ることはできるだろう。

アメリカの行政府と議会の関係が過度に不安定になれば、ロシアが意見の不一致を指摘しアメリカ政治の「分裂状態」をあざ笑うチャンスが山ほど出てくるのは間違いない。政権内の亀裂を露わにして就任後わずか10日間でトランプに更迭されたホワイトハウスのアンソニー・スカラムッチ広報部長を見れば、すでにそれは明らかだ。

有能な政府はあらゆる政府機関を行政府に従わせる、というのがロシア政府のイデオロギーだ。行政府を議会やメディアといった足かせから解放せよ、そうすれば国民も救われる、という考え方だ。

このイデオロギーに対し、トランプは果たしてどんな立場を取るのだろうか。

(翻訳:河原里香)

This article first appeared on the Wilson Center site.

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米雇用統計、4月予想上回る17.7万人増 失業率4

ワールド

ドイツ情報機関、極右政党AfDを「過激派」に指定

ビジネス

ユーロ圏CPI、4月はサービス上昇でコア加速 6月

ワールド

ガザ支援の民間船舶に無人機攻撃、NGOはイスラエル
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 5
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 6
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 7
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 8
    目を「飛ばす特技」でギネス世界記録に...ウルグアイ…
  • 9
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 10
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中