最新記事

観光

外国人が心底失望する「日本のホテル事情」

2017年7月31日(月)12時00分
デービッド・アトキンソン(小西美術工藝社社長)※東洋経済オンラインより転載

たとえば、日本には「一流」と言われる旅館が多くありますが、スタイルが非常に独特で、短期滞在に合わせた限定的なサービスなので、やり方を変えないかぎりグローバルスタンダードには合いません。

いくら日本人に評価されても、グローバルスタンダードから見ると良くて「3つ星」くらいです。外国人に泊まって欲しいならば、必要最低限の調整が必要です。「郷に入るなら郷に従え」という意見もありますが、外国人は「なら、郷には入らない」と考えます。これでは、観光戦略は成功しません。

日本には「5つ星ホテル」が何軒必要か

Five Star Allianceに登録されている3236軒の「5つ星ホテル」がある139カ国を訪れた外国人観光客数は11億4907万人(2015年)ですので、1軒当たりの外国人観光客は35万5090人になります。

この計算でいくと、2020年に4000万人の訪日観光客を目指している日本には、最低113軒の5つ星ホテルが必要となります。2030年の6000万人だと169軒です。

実際、世界各国の国際観光収入と「5つ星ホテル」数の相関関係を分析すると、なんと相関係数は91.1%。極めて高い数値を示します。この計算をしたとき、私は強い衝撃を受けました。

しかし、よく考えてみると1泊数千円の宿に泊まるバックパッカーが1人来るより、1泊10万円のホテルを利用する富裕層に来てもらったほうがよほど稼げるのは当たり前です。このような人は、ホテルに限らず、あらゆる観光資源にたくさん支出してくれる存在なのです。

「5つ星ホテル」を多くもっている「観光大国」がいかに潤うのかは、さまざまなデータが雄弁に物語っています。

たとえば、アメリカは国際観光客数では世界一のフランスに及ばす第2位というポジションに甘んじていますが、国際観光収入では圧倒的な世界一です。

一方、フランスは世界で最も外国人観光客が訪れているのに、国際観光収入では第4位に転落しています。1人当たり観光客収入で見ると、アメリカは世界第6位なのに対し、フランスはなんと世界第108位にすぎないのです。ちなみに、タイは第26位と、かなり健闘しています。

つまり、たくさんの外国人観光客が訪れているものの、アメリカを訪れる外国人観光客よりあまりおカネを使わないというのが、フランスの課題なのです。

「観光収入」は高級ホテルの存在がカギ

このような「逆転現象」をさまざまな角度から分析をしていくと、「5つ星ホテル」がカギとなっている事実が浮かび上がります。

実はアメリカにはなんと755軒の「5つ星ホテル」があり、これは、全世界の「5つ星ホテル」の23.3%を占め、断トツの世界一なのです。一方、フランスの「5つ星ホテル」はタイよりも少し多い125軒しかありません。つまり、渡航先で多くのおカネを費やす「富裕層」を迎え入れる体制の差が、そのまま1人当たり国際観光収入の差になっているのです。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ユーロ圏成長率、第1四半期は予想上回る伸び 景気後

ビジネス

インタビュー:29日のドル/円急落、為替介入した可

ワールド

ファタハとハマスが北京で会合、中国が仲介 和解への

ビジネス

ECB、インフレ鈍化続けば6月に利下げ開始を=スペ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「瞬時に痛みが走った...」ヨガ中に猛毒ヘビに襲われ…

  • 8

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 9

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 10

    ナワリヌイ暗殺は「プーチンの命令ではなかった」米…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 9

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 8

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    「誰かが嘘をついている」――米メディアは大谷翔平の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中