最新記事

日ロ関係

北方領土交渉の「新アプローチ」は幻に

2017年7月21日(金)10時15分
ジェームズ・ブラウン(テンプル大学日本校准教授)

「特別な制度」は本気か

だが日本側の期待とは裏腹に、ロシア側の態度はかなり硬化している。まず、広範な安全保障問題を持ち出し始めた。6月初めにプーチンは、これらの島を日本に引き渡したら「米軍基地やミサイル防衛施設を建設されかねない」との懸念を表明。6月中旬にも、日米安全保障条約が障害だとの見解を示した。

どうやらロシアは領土問題を利用して、日本の安全保障に影響力を行使しようとしているようだ。領土問題を前進させたいならアメリカから距離を置け、というわけだ。

追い打ちをかけるように、ロシアのトルトネフ副首相は問題の島々を、税制優遇などで投資を呼び込む「先行発展領域」と呼ばれる経済特区に指定すると発表した。これは共同経済活動に関する日本側の理解と真っ向から対立する方針だ。

【参考記事】断交1カ月、サウジはカタールの属国化を狙っている

ロシアの法律が適用される経済特区に参加すればロシアの主権を認めることになるから、日本の企業は進出できない。その間に諸外国からの投資が増えれば、ロシアの実効支配が一段と強まることになる。

ロシアの意図は明瞭だ――日本は余計な条件を付けずに島の開発に着手しろ。嫌なら日本抜きで進めるまでのことだ。

両国は8月末に協議を再開する意向だが、安倍の対ロ政策の主たる「成果」とされるものが、実は失敗だったことは明らかだ。安倍政権が北方領土を引き寄せようとすればするほど、あの島々は遠のいていく。

From thediplomat.com

[2017年7月25日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、エプスタイン氏自家用機8回搭乗 司法省

ワールド

米最高裁、シカゴへの州兵派遣差し止め維持 政権の申

ビジネス

銅価格、1万2000ドルの大台を突破し最高値 今年

ワールド

国連安保理、ベネズエラ情勢巡り緊急会合 米「最大限
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者・野村泰紀に聞いた「ファンダメンタルなもの」への情熱
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これまでで最も希望が持てる」
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 6
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 7
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 8
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 9
    なぜ人は「過去の失敗」ばかり覚えているのか?――老…
  • 10
    楽しい自撮り動画から一転...女性が「凶暴な大型動物…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 9
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 10
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中