最新記事

いとうせいこう『国境なき医師団』を見に行く(ウガンダ編)

風呂に入れさせてもらえないか──ウガンダの難民キャンプで

2017年7月4日(火)17時30分
いとうせいこう

外来診療施設へ

と、しばらく迷った末に俺たちはUNHCRの銀シートを張り巡らしたひとつの施設に着いた。聞けば、全体をUNが作り、その中での外来診療の一部を『国境なき医師団(MSF)』が受け持っているのだった。

細い木材とシートで作られた即席の診療所。俺たちが着いたのがもう夕方近かったから診察は終わっていたけれど、中にいる医療スーパーバイザーの現地人モハメッド・アヌレが一緒に施設を巡り、くわしく説明してくれることになった。

6人の現地スタッフで運営されているその場所もまたMSFだけでなく、『メディカルチームズ・インターナショナル』という組織の7人との共同事業になっていた。

待合室(とはいえ、もちろん風吹き抜ける場所だ)があり、診療室が2つ、妊産婦ケアの部屋、ワクチン関係の調査室、栄養失調専門の部屋、データルーム、運び込まれた患者の経過観察のためにベッドが2床置かれた部屋などがある。それらがすべて木の板とシートで簡易的に作られ、廊下をつなぐような形で建て増しされているのである。

1日で診る患者は150人から200人。緊急に出来た診療所としてはてんてこまいの忙しさだろうと思った。しかし、入り口の待合室あたりには仕事を終えた若い女性スタッフたちが3人いて、おしゃれな髪形のままMSFのビブスを装着しておしゃべりなどしている。実になごやかなムードがあった。

itou0704b.jpg

オシャレさんたち

近づいて質問してみると彼女らは、南スーダンの言葉を翻訳する係で、これまでの取材地でもたくさん出会ってきた文化的仲介者という役割も担っているのだろうと思われた。明るい彼女たちは漆黒の肌を美しく光らせながら、よく笑った。

ふと気づくと、俺の前に一人の老人が近づいてきていた。木を削った杖を右手によたよたしている。何か懐かしい気がしたのは、少し恥ずかしげにする姿、それでいて人懐っこさも見せるかすかな笑顔が俺の父親に似ているように感じたからだろうと、今は思う。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中朝首脳が会談、戦略的な意思疎通を強化

ビジネス

デジタルユーロ、大規模な混乱に備え必要=チポローネ

ビジネス

スウェーデン、食品の付加価値税を半減へ 景気刺激へ

ワールド

アングル:中ロとの連帯示すインド、冷え込むトランプ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:豪ワーホリ残酷物語
特集:豪ワーホリ残酷物語
2025年9月 9日号(9/ 2発売)

円安の日本から「出稼ぎ」に行く時代──オーストラリアで搾取される若者たちの実態は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 2
    【動画あり】9月初旬に複数の小惑星が地球に接近...地球への衝突確率は? 監視と対策は十分か?
  • 3
    「見せびらかし...」ベッカム長男夫妻、家族とのヨットバカンスに不参加も「価格5倍」の豪華ヨットで2日後同じ寄港地に
  • 4
    「よく眠る人が長生き」は本当なのか?...「睡眠障害…
  • 5
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 6
    Z世代の幸福度は、実はとても低い...国際研究が彼ら…
  • 7
    【クイズ】世界で2番目に「農産物の輸出額」が多い「…
  • 8
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 9
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動…
  • 10
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 1
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 2
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動ける体」をつくる、エキセントリック運動【note限定公開記事】
  • 3
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体」をつくる4つの食事ポイント
  • 4
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 5
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界が…
  • 6
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 7
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 8
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 9
    首を制する者が、筋トレを制す...見た目もパフォーマ…
  • 10
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大ベビー」の姿にSNS震撼「ほぼ幼児では?」
  • 4
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 5
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 6
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 9
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中