最新記事

自動車

ボルボが2年で全車種EVシフト 背景に中国メーカー

2017年7月7日(金)12時56分
キース・ジョンソン

スウェーデン・ストックホルムのショウルーム TT News Agency/Jonas Ekstromer/REUTERS

<ガソリンを中心に回っていた世界に、新たなスタンダートが誕生する。その原動力は中国?>

スウェーデンのボルボは、生産する全ての車種を電気自動車(EV)に切り替える、初の大手自動車メーカーとなった。他社が続けば、たとえ一部であっても、気候変動対策、石油の需要やエネルギー地政学に大きな影響を与える可能性がある。

ボルボは7月5日、1972年の創業から手掛けてきたガソリン車の生産を段階的に廃止し、2019年以降に発売するすべての車種をEVやハイブリッド車(HV)にすると発表した。

それも、「安全性は高いが退屈」という従来型のボルボ車ばかりではない。「ポールスター」のブランド名で、アメリカのEVメーカー、テスラのスタイリッシュな電気自動車と競争できる車を開発するという。ボルボは脱ガソリン、脱ディーゼルを宣言する初の大手自動車メーカーになる。

ボルボのホーカン・サムエルソンCEOは、「EVの需要はどんどん高まっている」と言う。「今日の発表は、内燃機関だけに頼る自動車の終わりの始まりだ」

【参考記事】テスラが描くエネルギー新世界
【参考記事】ブロックチェーンでIoTに革命 中国EVメーカーの巨大プロジェクト

EV開発に懸ける意義

ヨーロッパの自動車メーカーにとって、EVに移行する意味は単に顧客の要望を満たすだけにとどまらない。温室効果ガスの削減を目指すEUは近年、排ガス規制を厳しくしており、自動車メーカーはよりクリーンなエンジンの開発を急いでいる。ガソリンエンジンに代わるのはディーゼルエンジンと思われた時期もあったが、2015年に独自動車大手フォルクスワーゲン(VW)の排ガス規制逃れが発覚し、業界の未来には暗雲が立ち込めている。

今は排ガスが少ないか排ガスゼロのHVやEVの開発競争に弾みがついている。バッテリーの値段も下がってきて、ガソリン車に対するHVやEVのコスト競争力も上がってきた。

ボルボが2010年以降、中国の自動車メーカー、浙江吉利控股集団(ジーリーホールディンググループ)の傘下にあるのも今回の決断と無縁ではない。中国はHVとEVの世界最大のマーケットで、昨年の販売数は約35万台。ヨーロッパの22万台、アメリカの15万9000台をはるかにしのぐ。

中国がEVに懸ける夢は、アメリカやヨーロッパよりはるかに野心的だ。石炭火力発電所と排ガスで致命的と言ってもいいほど大気汚染が深刻な中国では、クリーンな自動車の価値はそれだけ高い。中国政府が減税や補助金、充電ステーションの整備などでEVの普及を促進しているのもそのためだ。

中国には他にも考慮すべきことがある。中国はアメリカと並ぶ最大の石油輸入大国。輸入石油への依存は戦略的な弱点だ。国内でHVとEVをどんどん普及させるのは、環境汚染の問題を抜きにしても道理にかなっているのだ。

【参考記事】VWだけじゃない、排ガス不正
【参考記事】燃料電池車はテスラに勝てるか

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

過度な為替変動に警戒、リスク監視が重要=加藤財務相

ワールド

アングル:ベトナムで対中感情が軟化、SNSの影響強

ビジネス

S&P、フランスを「Aプラス」に格下げ 財政再建遅

ワールド

中国により厳格な姿勢を、米財務長官がIMFと世銀に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 2
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 3
    ギザギザした「不思議な形の耳」をした男性...「みんなそうじゃないの?」 投稿した写真が話題に
  • 4
    大学生が「第3の労働力」に...物価高でバイト率、過…
  • 5
    「認知のゆがみ」とは何なのか...あなたはどのタイプ…
  • 6
    【クイズ】世界で2番目に「リンゴの生産量」が多い国…
  • 7
    【インタビュー】参政党・神谷代表が「必ず起こる」…
  • 8
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 9
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 10
    ニッポン停滞の証か...トヨタの賭ける「未来」が関心…
  • 1
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 2
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 3
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ海で「中国J-16」 vs 「ステルス機」
  • 4
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 5
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 6
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 7
    メーガン妃の動画が「無神経」すぎる...ダイアナ妃を…
  • 8
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 9
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 10
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 7
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 8
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 9
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 10
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中