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インタビュー

「投資は科学」とは対極の投資哲学を掲げる資産運用会社

2017年6月29日(木)16時15分
WORKSIGHT

自分の常識をはるかに超えた出来事に人は感動する

また、ヤマト運輸は142億円という巨額の寄付を被災地に対して行ったことでも話題になりました***。同社の純利益の4割に上る額です。すごいことですよね。この話の何が人の心を揺さぶるかといえば、本気で被災地のためになりたいという気迫を感じるからでしょう。つまり、普通ではありえないこと、自分の常識をはるかに超えた事象がそこにある。そのことに人は感動を覚えるのです。

常識を超えるその地点がどこかといえば、目安は5パーセントといえます。統計学的に母集団の2標準偏差の範囲から超えた外れ値はだいたい5パーセントですし、企業会計原則でも重要性の原則として5パーセント以上となったときに人は重要と感じるとされています。つまり、5パーセントを超えないものは標準的でうわべだけと思うし、5パーセントを超えると意味があると感じ始める。純利益の4割を寄付する行為は確率5パーセントという絶大なインパクトをもたらしました。だから意味があるんです。

社会的に求められていることに真摯に取り組むことが企業の価値を高めます。「売上の4割を寄付するなんてどうかしている」という人も世の中にはいるでしょう。利益追求型の株主なら特にそう思うかもしれません。でも、ヤマト運輸の被災地での必死の物流支援や寄付について、「結い2101」の受益者総会でお話ししたところ、誰からも異論・反論は出ませんでした。それどころか受益者のみなさん感激して、中には泣いておられる人もいました。

そういう方々が「いい会社」に投資して応援する。そして豊かで調和のとれた持続可能な社会が形成されていく。これが私たちの考える「あたたかい金融」であり、「まごころの投資」です。お金は目的でなく手段に過ぎないのです。社会にいいことをしている企業をお金を通じて応援したい。鎌倉投信はその入り口でありたいと思っています。

持ちつ持たれつでもなく利己的でもなく、対話を続ける

私たちが投資することで投資先の従業員の方々にもいい影響をもたらすことができたらうれしいですね。実際、上場している投資先にアンケート調査をしたところ、「社員にいい影響があった」と答えた投資先が数社ありました。鎌倉投信は従業員のみなさんが活き活き働ける環境作りも「いい会社」の要件だと考えているので、そのあたりがポジティブにとらえられているのかもしれません。

また、鎌倉投信がいることで「個人の株主が増えた」「機関投資家株主の評判が上がった」といった回答もありました。「鎌倉投信の投資対象であると取引先に伝えたところ、"いい会社"なんですねと信頼感が一気に高まります」という声も寄せられています。企業のブランディングにも寄与できていることは私たちにとっても喜ばしいことです。

日本の企業は株主との対話に慣れていません。銀行と持ちつ持たれつでやっていたところへ、いきなり外国人の投資家がやってきて利己的な主張ばかり繰り返すようになったものだから、株主とのコミュニケーションに臆病になっているという面もあるでしょう。でも僕らは持ちつ持たれつでもなく、利己的でもありたくない。なぜならば、その会社が社会で必要とされる会社だからです。そういう会社に対してはできることは何でもやります。

WEB限定コンテンツ
(2016.12.28 神奈川県鎌倉市の鎌倉投信オフィスにて取材)

text: Yoshie Kaneko
photo: Hirotaka Hashimoto

※インタビュー後編:「お金のために働くな」とファンドマネージャーは言った

* Bコーポレーション
環境や社会に配慮した事業活動を行う企業に与えられるグローバルな認証制度。

**日経リサーチによる2016年版「ブランド戦略サーベイ」では、ヤマト運輸がグーグルを抑えて首位となった。同社の高い企業価値を示す調査結果といえそうだ。

*** 震災後の1年間、宅急便1個につき10円を被災地に寄付する取り組み。2011年度は約14.2億個の宅急便を取り扱ったため、142億円の寄付となった。

wsArai170629-site.jpg鎌倉投信は投信委託業務、投資信託の販売をおこなう資産運用会社。2008年11月創業。2010年3月から公募型投資信託「結い 2101」の運用を開始。投資先企業は60社、受益者数約1万6500人、運用する純資産は248億円(2016年12月現在)。
http://www.kamakuraim.jp/


新井氏の著書『投資は「きれいごと」で成功する――「あたたかい金融」で日本一をとった鎌倉投信の非常識な投資のルール』(ダイヤモンド社)。鎌倉投信設立に至る経緯や「結い 2101」にかける想いがつづられている。

wsArai170629-portrait.jpg新井和宏(あらい・かずひろ)
鎌倉投信株式会社 取締役 資産運用部長。1968年生まれ。東京理科大学工学部卒。住友信託銀行(現・三井住友信託銀行)を経て、2000年、バークレイズ・グローバル・インベスターズ(現・ブラックロック・ジャパン)に入社。企業年金・公的年金などを中心に、株式、為替、資産配分等、多岐にわたる運用業務に従事し、ファンドマネージャーとしての運用資産残高は数兆円であった。2008年11月、志を同じくする仲間4人と、鎌倉投信株式会社を創業。2010年3月より運用開始した投資信託「結い 2101」の運用責任者として活躍。他に、横浜国立大学経営学部非常勤講師(平成28年3月まで)、特定非営利活動法人「いい会社をふやしましょう」理事、経済産業省「おもてなし経営企業選」選考委員(平成24、25年度)も務めている。

※当記事はWORKSIGHTの提供記事です
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