最新記事

朝鮮半島

北朝鮮の人権侵害はもう限界 今こそ対北政策の転換を

2017年6月29日(木)10時10分
J・バークシャー・ミラー(本誌コラムニスト、米外交問題評議会国際問題フェロー)

ワームビアの死で米政権は目を覚ますのか John Sommers II-REUTERS

<挑発外交の道具にされたアメリカ市民の命。中国による説得を待つ時期は終わった>

北朝鮮を旅行中に逮捕され、1年5カ月にわたり拘束されていた米国人大学生オットー・ワームビアが、6月中旬に昏睡状態で解放されて帰国。約1週間後に死亡した。1年近く意識不明だったとされ、拘束中の不当な扱いで脳に損傷を負ったともみられている。

法の支配や適正手続きをないがしろにし、最も基本的な市民の自由も無視した、あるまじき人権侵害だ。ジョン・マケイン米上院議員も、無責任な国家による「殺人」だと北朝鮮を強く非難している。

これを機に、米政府は北朝鮮に対する態度を明確に変えるべきであり、今回の件を1つのニュースとして終わらせてはならない。ましてや、まだ3人の米国人が北朝鮮に拘束されているのだ。

しかし残念ながら、トランプ政権の対北朝鮮政策が目立って変わる気配はない。6月21日に開かれた米中の閣僚級による初の外交・安全保障対話の直前に、スーザン・ソーントン米国務次官補代行(東アジア太平洋担当)は、拘束中の3人をできるだけ早く帰国させたいが、「今回の最重要課題とは考えていない」と語った。

対話に出席したマティス米国防長官は、ワームビアの件に言及して北朝鮮を非難。挑発を繰り返す北朝鮮に「米国民はいら立ちを募らせている」とも述べたが、今すぐアメリカが中国を飛び越えて何かをすることはなさそうだ。

【参考記事】米学生は拷問されたのか? 脱北女性「拷問刑務所」の証言

状況は異なるが、米国人ジャーナリストのジェームズ・フォーリーが1年以上テロ組織ISIS(自称イスラム国)の人質となり、14年に殺害映像が公開されたときのことを思い出す。世論の激しい怒りは、当時のオバマ政権がイラクやシリアに対する「中立的な態度」を転換するきっかけの1つにもなった。

今回はそこまで極端な反応はなさそうだし、望ましくもない。しかし、トランプ政権に明確な態度を取るように要求する上で、これ以上のタイミングはないだろう。

米政府が取るべき行動の1つは、言うまでもなく、北朝鮮に拘束されている米国人を速やかに解放させることだ。そして、北朝鮮を再びテロ支援国家に指定し、米国人による外交以外の北朝鮮訪問を全面的に禁止することだ。

一方で、北朝鮮との間に拉致問題を抱える日本にも関係がありそうだ。日本は以前から、北朝鮮に拉致の責任を認めさせることの重要性を訴えてきたが、米政権はうわべの関心を示すだけだった。日本にとっては、問題をアメリカと共有する機会にすることもできる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

パリのソルボンヌ大学でガザ抗議活動、警察が排除 キ

ビジネス

日銀が利上げなら「かなり深刻」な景気後退=元IMF

ビジネス

独CPI、4月は2.4%上昇に加速 コア・サービス

ワールド

米英外相、ハマスにガザ停戦案合意呼びかけ 「正しい
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われた、史上初の「ドッグファイト」動画を米軍が公開

  • 4

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    ナワリヌイ暗殺は「プーチンの命令ではなかった」米…

  • 10

    目の前の子の「お尻」に...! 真剣なバレエの練習中…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 9

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 8

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    「誰かが嘘をついている」――米メディアは大谷翔平の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中