最新記事

ビジネスモデル

ベンチャーの未来は起業しない起業へ

2017年6月27日(火)10時10分
ケビン・メイニー(本誌テクノロジー・コラム二スト)

DRAFTER123-DIGITAL VISION VECTORS/GETTY IMAGES

<アイデアがあれば会社設立はもう要らない。企業そのものの「創造的破壊」を目指すオールタートルズ社が始めた次世代型開発者支援とは>

まずい紅茶とドナルド・トランプの台頭――それが、オールタートルズの始まりだった。

「全ての亀」という風変りな名前を持つこの会社は、先月発足したばかり。だがテクノロジー分野での起業をめぐる常識を、一変させる可能性を秘めている。

同社を創設したのは、メモアプリを手掛けるエバーノートの前CEOフィル・リービン。最近ではベンチャーキャピタル、ゼネラル・カタリストの上級顧問を務めている。

リービンは昨年の秋、移動の際に飛行機内で紅茶を注文した。カップのお湯にティーバッグを入れたまではいいが、ほかのことに気を取られて10分間ほど放置してしまった。紅茶は出過ぎて台無し、ぶよぶよのティーバッグをどこに置けばいいかも分からない......。

「紅茶を飲むのはムカつく体験だと思った」。リービンはそう本誌に語った。テクノロジー業界の人間にとってムカつく体験とは、「創造的破壊」のきっかけになるものだ。

【参考記事】アマゾンのホールフーズ買収は止めるべきか

ティーバッグの登場以来、変化のない紅茶の提供法をどう革新するかと、リービンは考え始めた。一定時間が経過したら水分を通さないメッシュ素材を使っては? その素材で作ったティーバッグをマドラーに取り付けて、カップの中に入れたままにできるようにしては?

そんな商品を製造・販売するためのプロセスはどんなものか。素材の開発企業と提携し、プロトタイプを制作し、ベンチャーキャピタルから資金を調達し、会社を創設する。そのプロセスは全部で約20段階に及ぶと、リービンは結論した。

アイデアの実現にこれほどの段階が必要なら、彼のような経験も人脈もない者にとっては巨大な壁に直面するのと同じだ。そう気付いたことが、ひらめきにつながった。

「この手のアイデアが世界中にどれほど存在するのか」と、リービンは問い掛ける。「問題の解決法を理解している人々がいるのに、世界は彼らに力を貸す構造になっていない。ならば、そんな構造をつくればいい」

その当時、米大統領候補だったトランプの選挙戦を通じて、アメリカ国内の根深い分断が浮き彫りになっていた。シリコンバレーはユニコーン(未上場で10億ドル以上の企業価値があるベンチャー企業)を多数擁し、自動運転車などの開発に沸く一方で、多くの国民が社会から取り残されたと感じていた。

データ分析・提供を手掛けるグッドコールの昨年の調査によれば、ユニコーンの創設者の9割は、全米の大学総数のうち3%を占めるにすぎない一握りの大学の出身。現実的には、ほとんどがスタンフォード大学かハーバード大学の卒業生だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ベネズエラ4月石油輸出、9カ月ぶり低水準 シェブロ

ワールド

米国の対中貿易制限リストに間違い散見、人員不足で確

ワールド

ケネディ米厚生長官、ワクチン巡り誤解招く発言繰り返

ビジネス

欧州不動産販売、第1四半期11%減 トランプ関税影
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 5
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 6
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    目を「飛ばす特技」でギネス世界記録に...ウルグアイ…
  • 9
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中