最新記事

情報機関

米政府からまたリーク、マンチェスター自爆テロ容疑者の氏名 英捜査当局より先に

2017年5月24日(水)19時50分
ジャック・ムーア

自爆テロと関連する男を逮捕した家の近くに立つ武装警官と私服警官(英マンチェスター、5月23日) Stefan Wermuth-REUTERS

今週月曜の夜、英マンチェスターのコンサート会場で多くの死傷者を出す爆発があった後、伏せておいたはずの重要な捜査情報がメディアに垂れ流し状態になった。イギリスとベルギーの元情報長官が「口が軽過ぎる」と怒りの矛先を向けるのは、米政府関係者だ。

米人気歌手アリアナ・グランデのコンサートが終わった直後、会場付近で自爆したのは、リビア系イギリス人のサルマン・アベディ容疑者(22)だった。22人が死亡し、数十人が負傷した。テロ直後、時期尚早に報道されてしまった情報だ。そのネタ元を遡ると、情報源は米政府関係者だった。

【参考記事】アリアナコンサートで容疑者拘束、死者22人で不明者多数

米NBCニュースはテロ直後の数時間の間に、英捜査当局に話を聞いた米政府関係者の話として、初期に判明した死者数を20人と伝えた。他の米メディアも、英当局から話を聞いた米政府関係者から情報として、攻撃方法が自爆テロだったと報道。翌日、NBCニュースと米CBSニュースは、イギリスの捜査当局が確認するのを待たずに容疑者の氏名を放送した。死者数も容疑者の素性も、後に正しいと確認された。

イギリスの元情報機関トップは、米政府関係者に関して「うっかり喋ってしまっただけでは済まない。なぜ秘密を守らなければならないかを理解していない」と、本誌に語った。「個人の点数稼ぎのために喋ってしまうことが多過ぎる」

「アメリカ人はお喋りだ。おかげで本当に助かっている」と、同元トップは皮肉る。それに比べるとイギリス人は「はるかに口が堅い」。

怒りで沸騰したイスラエル

米政府関係者に言わせれば、自爆犯の氏名などどうせすぐに公表されたのだ、という理屈かもしれない。だがマンチェスター自爆テロのような事件では、単独犯の犯行はごく稀だ。実行犯の周囲には、何人も仲間がいて手助けしていることが多いと、専門家は口をそろえる。テロ直後の情報漏れは、情報収集を行っている情報部員や捜査員の任務の妨げになりかねない。

今回のリークが今後、米欧間の捜査協力に影響を及ぼすことになるかどうかはまだわからないが、米政府側にとって恥さらしな事例には違いない。英捜査当局より先に情報を明らかにしようという米政府関係者の衝動は、後に英政府との間で問題になる可能性もある。

アメリカ政府が喋り過ぎた事例はこれだけではない。ドナルド・トランプ米大統領はつい先日、ISIS(自称イスラム国)のテロ計画に関する最高機密をロシア高官にリークして非難を浴びたばかり。のちに機密の情報源はイスラエルの諜報機関だったとわかった。彼らは「怒りで沸騰」しており、アメリカの情報機関には2度と機密を明かさないと言っているという。

【参考記事】トランプ、最高機密をロシア外相らに話して自慢
【参考記事】トランプのエルサレム訪問に恐れおののくイスラエル

「ヨーロッパやイスラエルでは、アメリカでのように最高機密が漏れたりしない」と、先の元英情報機関トップは言う。「アメリカには最高機密を知ることができるランクの人間が何千人もいる。プロとしてどこまで信じられるのか疑問だ」

深刻極まりない評価だ。



【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガリニューアル!

ご登録(無料)はこちらから=>>


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ米大統領、エプスタイン文書公開法案に署名

ワールド

「日本を支えていく」とグラス駐日米大使、中国の日本

ビジネス

モデルナ、1.4億ドル投じてmRNA薬を米国内一貫

ワールド

米英豪、ロシアのウェブ企業制裁で協調 ランサムウエ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 2
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 3
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、完成した「信じられない」大失敗ヘアにSNS爆笑
  • 4
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 5
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 6
    アメリカの雇用低迷と景気の関係が変化した可能性
  • 7
    「これは侮辱だ」ディズニー、生成AI使用の「衝撃宣…
  • 8
    衛星画像が捉えた中国の「侵攻部隊」
  • 9
    ホワイトカラー志望への偏りが人手不足をより深刻化…
  • 10
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 6
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 7
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 8
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 9
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 10
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中