最新記事

中朝関係

北朝鮮が中国を名指し批判──中国の反応は?

2017年5月4日(木)17時41分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

(2) 平壌(ピョンヤン)は核問題に関して非理性的な思考に陥ってしまっているので、中国はこういった論調に対して、舌戦を繰り広げるつもりは全くない。

(3) 中国側は政府および民間人を含めた我々の立場を表明すれば、それだけでいい。それはピョンヤンに「中国が重視しているのは何か、レッド・ラインはどこにあるか」そして「もしも北朝鮮が新しい核実験をしたならば、前代未聞の厳しい制裁を北朝鮮に対して断行する」ということを知らせることである。

(4) 中朝の不一致(隔たり)は後悔論戦によっては、いかなる解決を見い出すこともできない。朝中社の論評から見出せるのは、「ピョンヤンは中国の大局的な外交路線における"国家の利益"が何であるかを理解していないということ」と「東北三省における(北が核実験をした時の)放射能汚染のリスクに関心を持ってない」ということ  だけである。

(5) 朝中社はおそらく、完全に閉鎖された環境下での北朝鮮の実感を表したものだろう。

(6) 中朝はハイレベルの対話を通して意思疎通を行う必要があるものと考える。核兵器を「北朝鮮の生命」とする過激主義から解放しなければならない。

(7) ピョンヤンが中国にどのような罵詈雑言をぶつけるかは重要ではない。肝心なのは、北朝鮮が次にどう出るかということだ。北朝鮮はまだ第6回の核実験を行っていない。4月に行ったミサイル試射も抑制的だった。

(8) 中国はアメリカが朝鮮半島問題に関して対話に応じるための条件を創り出すという貢献をしたいと思っている。

(9) 中朝関係を決めるカギは北京の手の中にある。朝中社が名指しで批判しようと中朝関係に潜むロジックと中国の態度には、いささかの変化もない。ただ中国は、朝中社の論評の中から、北朝鮮の思考方法をより鮮明に掌握することができたし、核問題の解決は容易ではないことを、さらに深く理解することには役立った。

米中接近は効果を発揮している

以上、中朝双方の言い分を平等にまとめてみた。

ここから、4月6日の米中首脳会談以降の劇的な米中関係の変化が、北朝鮮に相当なプレッシャーを与えていることが読み取れる。

筆者が気になったのは、環球時報の(6)に書いてある内容だ。

「ハイレベルの中朝対話」というのが、どのレベルまでを指すのか?

米朝対話は、当然「トランプvs金正恩」を示唆することになろうが、中朝対話が、果たして「習近平vs金正恩」レベルにまで行くのかどうかは、逆に疑問だ。米朝よりも中朝の距離の方が遠い気がする。かつての中ソ対立のように、「骨肉の争い」というのは、他の敵よりも根が深く怨念に満ちている。せいぜい、六者会談レベルなのか、それとも「習近平vs金正恩」までいくのか、習近平の決意のほどを見てみたいものである。


endo-progile.jpg[執筆者]遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』『完全解読 中国外交戦略の狙い』『中国人が選んだワースト中国人番付 やはり紅い中国は腐敗で滅ぶ』『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』など著書多数。近著に『毛沢東 日本軍と共謀した男』(新潮新書)


※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

この筆者の記事一覧はこちら≫


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結

ワールド

英、中東に戦闘機を移動 地域の安全保障支援へ=スタ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 2
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 3
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されずに「信頼できない人」を見抜く方法
  • 4
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 5
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 6
    構想40年「コッポラの暴走」と話題沸騰...映画『メガ…
  • 7
    逃げて!背後に写り込む「捕食者の目」...可愛いウサ…
  • 8
    「結婚は人生の終着点」...欧米にも広がる非婚化の波…
  • 9
    4年間SNSをやめて気づいた「心を失う人」と「回復で…
  • 10
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 7
    ふわふわの「白カビ」に覆われたイチゴを食べても、…
  • 8
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 9
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 10
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中