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沖縄の風俗業界で働く少女たちに寄り添った記録

2017年5月1日(月)15時49分
印南敦史(作家、書評家)

しかし、こと沖縄に関していえば、そこまでドライにまとめることは難しそうなのである。その証拠に、ここに登場する女性たちはみな共通して、「困難からなんとかして逃れよう」という前向きな意思を持っている一方、どうしようもできない諦めの気持ちをもぬぐい切れていない。

また、もしかしたらそこには、劣悪な環境だけでなく、沖縄特有の文化の影響もありそうだ。たとえば次のような記述には、その一端が表現されている。


 沖縄の非行少年たちには、先輩を絶対とみなす「しーじゃー・うっとう(=先輩と後輩)」関係の文化がある。そのため、先輩から金銭を奪われ、ひどい暴行を受けても、後輩の多くはそれを大人に訴えることをしない。そして学年が変わり自分が先輩になった子は、今度は自分たちより下の後輩たちに暴力をふるう。(77ページより)

ある意味では、家でも学校でも暴力を避けられないということになるのかもしれない。だとしたら、当然ながらそれは楽なことではないだろう。ましてや頼れる相手のいない女性たちの多くは、それに加えて子育ての苦労も抱えることになる。

暴力や貧困のなかで子どもを育てることは、それだけで非難の対象になってしまいがちだ。そのことは著者自身も認めているが、多くの時間を女性たちと過ごすなかで、もし同じような立場に立たされたとしたら自分も同じように振る舞うのではないかと感じた、と記している。たしかにそれは、取材者だからこそたどり着けた実感なのだろう。

だから、彼女たちの人生を「分析」するのではなく、それぞれのみてきた景色や時間に寄り添いつつ、「生活史」の形式で記すことを目指したのだそうだ。


 とはいっても、その生活をもう少し引いたアングルでとらえるときに、彼女たちの拠りどころが子どもしかないこと、回帰する場所が家族しかないこと、こんなにもいくつもの困難をひとりで引き受けるしかなかったことを私はよしとしてるのではありません。それが示していることは、少ない資源で選ぶ道がそこにしかない、という事実であり、長いあいだ、女性や沖縄の問題が放置されている、日本の現実です。(256ページより)

こうした記録を目にしてしまうと、たしかにそのとおりだと実感せざるを得ない。そういう意味では、実際にある現実を浮き彫りにした記録として、(売れるとか売れないとかいうこと以前に)これは間違いなく出す必要のあった書籍だといえる。しかし、だからこそ気になった点があるのも事実だ。

【参考記事】フィリピンパブの研究者がホステスと恋愛したら......

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