最新記事

エリート社会

中国はなぜイバンカ・トランプに夢中なのか

2017年4月19日(水)21時30分
レベッカ・カール(米ニューヨーク大学歴史学教授)他

白人でブロンドで家長を重んじ、自分や家族の利益になる限り社会の不公正など気にもかけないイバンカのような女性が、中国(やアメリカ)で憧れの対象になっても驚くにはあたらない。しかしだからといって、イバンカの存在が米中関係に実質的な変化をもたらすとは思えない。むしろ彼女は、もっとグローバルで生死に直結する問題──戦争や金融、経済競争、貧困、環境問題など──について議論が及ぶのを避けるためのお飾りだ。

イシュ・マオ、独フンボルト大学ベルリン大学院生

トランプは大統領就任前から中国を挑発する発言を繰り返してきたが、いまや多くの中国人が、本人やトランプ家に対して奇妙な共感を覚えている。トランプが着々と家族経営のような政権をこしらえたことに対し、アメリカでは批判の声が噴出したが、多数の中国共産党幹部にとっては、権力を掌握するための手法としてあまりに見慣れた光景だ。

一時トランプと妻のメラニアの不仲説が出回ると、中国で夫の影に隠れてないがしろにされている主婦層のネチズンが一斉にメラニアに感情移入し、応援するようになった。

中国エリートの模範

トランプ家のポジティブなエネルギーの源泉とされるイバンカを中国で崇拝するのは、美しく自立し成功したいと熱望するホワイトカラーの女性だけではない。「Bling Dynasty」と称される中国でわずか1%の超富裕層や、「富二代」と呼ばれる裕福なエリート層の子どもたちも、自分たちのロールモデルとしてイバンカに憧れている。

トランプ家のゴシップを取り上げる中国メディアの過熱ぶりは、米中が対立する諸問題の扱いの小ささと比べると、常軌を逸している。

トランプの孫娘にあたるアラベラが中国語で歌を披露した動画は、中国の一般家庭で何度も再生されたが、肝心のトランプと習による会談内容については、いまだ詳細がはっきり伝わっていない。なぜこうなったのか。まず中国は、対米関係の悪化から国民の目をそむけ、対米世論を和らげようとしたのではないか。その上で武道さながら、戦いの前に敵に敬意と感謝の意を示したのかもしれない。トランプ政権もそれに応じ、友好的なジェスチャーを見せた格好だ。

中国でトランプへの共感が広がる背景には、2国間の相互理解と共通点を見出すために地ならしをしたい中国側の明確な願望がある。米中関係を改善する道のりは前途多難だが、今のところ両国とも落ち着いた雰囲気で交渉をスタートさせる構えのようだ。下馬評とは違い、トランプは中国流の戦術にかなり巧みに応戦しているようだ。大統領選中、中国で長年ビジネスを行った経験を自信満々に宣伝していたのも納得できる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

FRB理事候補ミラン氏、政権からの利下げ圧力を否定

ワールド

ウクライナ安全保証、26カ国が部隊派遣確約 米国の

ビジネス

米ISM非製造業指数、8月は52.0に上昇 雇用は

ビジネス

米新規失業保険申請、予想以上に増加 労働市場の軟化
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:豪ワーホリ残酷物語
特集:豪ワーホリ残酷物語
2025年9月 9日号(9/ 2発売)

円安の日本から「出稼ぎ」に行く時代──オーストラリアで搾取される若者たちの実態は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【動画あり】9月初旬に複数の小惑星が地球に接近...地球への衝突確率は? 監視と対策は十分か?
  • 2
    「よく眠る人が長生き」は本当なのか?...「睡眠障害」でも健康長寿な「100歳超えの人々」の秘密
  • 3
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 4
    「生きられない」と生後数日で手放された2本脚のダ…
  • 5
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 6
    【クイズ】世界で2番目に「農産物の輸出額」が多い「…
  • 7
    世論が望まぬ「石破おろし」で盛り上がる自民党...次…
  • 8
    「あのホラー映画が現実に...」カヤック中の男性に接…
  • 9
    SNSで拡散されたトランプ死亡説、本人は完全否定する…
  • 10
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 1
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 2
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動ける体」をつくる、エキセントリック運動【note限定公開記事】
  • 3
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体」をつくる4つの食事ポイント
  • 4
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 5
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界が…
  • 6
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 7
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 8
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 9
    【動画あり】9月初旬に複数の小惑星が地球に接近...…
  • 10
    首を制する者が、筋トレを制す...見た目もパフォーマ…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を呼びかけ ライオンのエサに
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 9
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 10
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中