最新記事

宇宙

宇宙でも生き延びる地球生命は存在するのか? 細菌を成層圏に打ち上げ

2017年4月26日(水)16時15分
松岡由希子

Credits: NASA

<火星探査の際に、火星を地球の微生物で汚染しないようにと、NASAが細菌を成層圏に打ち上げてその変化を観察していた。ほとんどが死滅したが・・>

私たち人類は長年、宇宙のどこかに存在するかもしれない地球外生命(エイリアン)を追い求めて、宇宙探査に挑んできた。しかし、これは同時に、地球にしか存在しない生物を地球の外に持ち出し、他の惑星の環境を汚染したり、その生態系を破壊してしまうリスクをも秘めている。

NASAは『惑星保護局』を設置

このような"宇宙環境汚染"を未然に防ぐべく、米国、ロシア、日本ら105カ国が批准する『宇宙条約』では、宇宙や天体を有害に汚染しない旨を規定。NASA(アメリカ航空宇宙局)は、『惑星保護局』と呼ばれる専門部署を設置し、地球生物が太陽系を汚染しないよう、探査機の殺菌処理を徹底してきた。

しかし、微生物の中には、非常に耐性の強いものも存在する。とりわけ、「SAFR-032(バチルス・プミルス菌)」は、高温または極端な低温、乾燥などの過酷な生育環境でも芽胞をつくって生存し続ける"芽胞形成菌"のひとつだ。

成層圏に「SAFR-032」を打ち上げ観察

NASAのエイムズ研究センターは、2015年10月、ニューメキシコ州の上空12万5,000フィート(約38.1キロメートル)の成層圏に「SAFR-032」のサンプルが入った高高度気球を打ち上げた。気圧が低く、低温で乾燥し、紫外線が直接照射する成層圏は、生命体の存在が期待される火星と似た環境といわれている。そこで、成層圏に「SAFR-032」を送り込み、その変化を観察すれば、火星探査に伴う微生物汚染の予測に役立つのではないかと考えたのだ。

img_0732_edit.jpg

NASA/Christina Khodadad


学術誌『Astrobiology』によると、この実験において、気球の打ち上げから8時間後も生存していた「SAFR-032」の割合は0.001%未満。この結果によれば、探査機に「SAFR-032」が付着したままで火星に上陸したとしても、直射日光を浴びることで、そのほとんどが1日以内に死滅すると推測できる。

その一方で、火星のような過酷な環境下でも、わずかながら「SAFR-032」が生存しうることにも目を向ける必要がある。近い将来、より過酷な生育環境でも生き延びられるよう、この生物が進化していく可能性も否定できない。

また「SAFR-032」以外の微生物が同様の環境でどのような反応を示すかについては、まだ明らかになっていない。地球外生命の追究と"宇宙環境汚染"をもたらしうる地球生命の解明は表裏一体ともいえるだろう。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

米コロンビア大の伊藤隆敏教授が死去、インフレターゲ

ワールド

自民総裁選5候補が討論会、金融政策の方向性「政府が

ビジネス

ガンホー臨時株主総会、森下社長の解任議案を否決

ビジネス

日経平均は続伸、終値ベースの最高値更新 朝安後切り
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ハーバードが学ぶ日本企業
特集:ハーバードが学ぶ日本企業
2025年9月30日号(9/24発売)

トヨタ、楽天、総合商社、虎屋......名門経営大学院が日本企業を重視する理由

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の小説が世界で爆売れし、英米の文学賞を席巻...「文学界の異変」が起きた本当の理由
  • 2
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 3
    コーチとグッチで明暗 Z世代が変える高級ブランド市場、売上を伸ばす老舗ブランドの戦略は?
  • 4
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 5
    「汚い」「失礼すぎる」飛行機で昼寝から目覚めた女…
  • 6
    筋肉はマシンでは育たない...器械に頼らぬ者だけがた…
  • 7
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の…
  • 8
    カーク暗殺をめぐる陰謀論...MAGA派の「内戦」を煽る…
  • 9
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、…
  • 10
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍…
  • 1
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 2
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分かった驚きの中身
  • 3
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の物体」にSNS大爆笑、「深海魚」説に「カニ」説も?
  • 4
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ…
  • 5
    筋肉はマシンでは育たない...器械に頼らぬ者だけがた…
  • 6
    【動画あり】トランプがチャールズ英国王の目の前で…
  • 7
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、…
  • 8
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍…
  • 9
    日本の小説が世界で爆売れし、英米の文学賞を席巻...…
  • 10
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 6
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 9
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 10
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中